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41.ショタっ娘のお祭りデビュー(39)

「ミオ。とりあえず、水ヨーヨーを括り付けている――」 「んしょ。こんな感じでいいの?」 「……え?」  俺がヨーヨー釣りの遊び方を教えようとした、ちょうどその時。  ミオはすでに、何事も無かったかのごとく、自分の手よりも少し大きめで、真っ赤な水ヨーヨーを釣り上げていた。 「ねぇお婆さん。これで釣った事になる?」 「も……もちろんだよ、おめでとう。じゃあ引き続き頑張っておくれ」  ミオは呆気に取られているお婆さんをよそに、戦利品のヨーヨーを傍らのお椀に入れると、再び困ったような顔で次のヨーヨーを物色し始めた。  何と言うかまぁ、さすがは釣りの神様に見入られた申し子だよ。小さいころ、予備知識を仕入れて挑んでいた俺なんかとは、モノが違う。  ――ところで。  ミオはすでに二個目の水ヨーヨーを釣ろうとしているようなのだが、ひょっとしてこの子、「釣り糸が切れるまでに、三個釣ったらおみやげとして一個貰えるゲーム」だと勘違いしてないだろうか?  俺もお店のお婆さんも、決してそんなつもりで駆け引きを楽しんでいたわけではないのだが、ミオの職人さながらの表情を見るに、どうもルールを曲解している節がある。  もっとも、それはお婆さんの言葉が足りなかったから招いた事ではあるのだが、このままだと、ほんとに三個丸ごと釣ってしまいかねないぞ。 「はい。これで二個目ー。あと一個でいいんだよね」  やっぱりそうだ!  ミオはどうやら、お婆さんの「三個まで」という言葉を、おみやげを貰える条件が三個釣り上げる事だと思い込んでいるらしい。  ……まぁいいか、面白そうだし。  説明不足はこっちの責任じゃないし、ミオはあくまで「釣り糸が切れるまで」というルールに則って遊んでいるだけだからな。  俺はこのまま三個目を釣れるかどうか見守りつつ、当初の目論見が外れたお婆さんの、慌てふためく様子でも眺めて楽しむ事にしよう。 「お、お嬢ちゃん、ずいぶん慣れてるじゃないか。ひょっとしてプロだったのかい?」 「プロってなぁに? 難しい言葉、よく分かんないよー」  眉をしかめながらそう言ったその直後、ミオは自分のノルマだと見なしていた、最後の水ヨーヨーを難なく釣り上げてしまった。 「やったぁ! 全部釣れたよー」 「やれやれ……まいったねぇ。これじゃあ、商売上がったりだよ」  お婆さん、きっと想定外の結果だったんだろうな。まさかうちのショタっ娘ちゃんが、釣りをやらせたら天下一品の腕前だったなんて。 「おめでとう、お嬢ちゃん。よく頑張ったね」  ため息まじりで、ミオに祝福の言葉を述べるお婆さん。その顔に、先程の小狡さはもう見る影もなく、今はまるで孫を見守る時のような、優しさだけが満ち溢れていたのだった。

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