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43.ロングドライブの果てに(15)

「へぇー。ねぇお兄ちゃん」 「ん? 何かな?」 「お兄ちゃんは毎年、この車でお家に帰ってたの?」 「そうだよ。車を買ってからはずっとだな。入社したてのペーペーの時は、新幹線と普通電車を乗り継いで帰ってたけどね」  実を言うと、今年は新幹線で帰るか否かを検討していたのだ。しかし、会社の連休がいつからなのかが決まるまでは、切符の予約を取れないのである。  ギリギリになって切符を確保しても、それが自由席で、かつ満席だったら、座るところもなくなるからとにかく辛い。  俺はとにかく、かわいいミオには、そんなしんどい思いをさせたくなかったのだ。  そこへいくと、マイカーなら地元の各所を遊び回るのに便利だし、何より、俺とミオだけの二人っきりな時間をたくさん確保できるからね。  とは言ったものの、ここに至るまでの、およそ二十キロにも及ぶ渋滞に巻き込まれるのは、全くの想定外だったわけだが。 「咲真の出口が見えてきたよー」 「よーし。ここから下りて、実家を目指そう」  高速道路の走行車線から、咲真の出口へ進路を変え、一般道に進入すると、のどかで懐かしい風景が目に飛び込んできた。  そうそう。俺の生まれ故郷である咲真は、昔からこんな風に農地が多くて、野焼きで稲藁を燃やしては、あの独特な煙と匂いを、辺り一面に漂わせてたんだよなぁ。  環境問題などで野焼きがご法度になった今では、その稲藁も、家畜の飼料や堆肥なんかに回されているみたいだけど。 「ウサちゃん、見て見てぇ。お兄ちゃんの田舎にやって来たんだよー」  ウサちゃんのぬいぐるみを両手で抱き上げたミオが、フロントガラスから広がる街の光景を見せている。  その楽しそうな表情を見ていると、ほっこりして優しい気持ちになるから不思議なものだ。  ――っと、いかん。微笑ましいミオのはしゃぐ様に見とれて、うっかり忘れ物をするところだった。  今日の咲真は渋滞もさほど無いようだから、これならあと二十分ほど走れば、実家にたどり着けるだろう。  お袋が、実家にする到着前には連絡を入れるようにと言っていたから、今のうちに、ちょっとコンビニにでも寄って車を停め、電話をかけさせてもらうとしよう。  ただ駐車場を借りるのはお店に申し訳無いから、店内で目についた、花火用に使うローソクと、各々が喉を潤すためのジュースを補充させてもらった。

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