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43.ロングドライブの果てに(17)
そりゃそうだよな、まだ十歳で、テレビもろくに見ていなかったショタっ娘ちゃんが、あんな俗っぽい言葉を知っているわけがないんだ。
しかし、タイムストリームって何だろうな。直訳すると「時の河」ってところか?
江戸時代から現代まで、止まることなく流れ続ける時の河を遡 る、という意味で使ったのなら、何気にインテリっぽく聞こえるんだよな。
この子がそこまで考えて発言したのかどうか、俺には知る術が無いが、まぁ、たぶんいつもの覚え間違いでしょう。
何しろうちのミオは、犬種と鶏レバーを混同して覚えちゃうくらいの天然っぷりだからね。
*
県道の分岐から山道に進入し、道路の脇に流れる川を横目に車を走らせ、安全運転に務めること、およそ二十分。
ようやく、俺が子供の頃、通学で歩いていた道が見えてきた。
懐かしいなぁ。家から小学校までの、徒歩三十分の道のりは、この辺りから始まっていたんだ。
あの頃は皆、道路脇の用水路を泳ぐ魚を見ながら呑気に歩いてたもんだが、どこかへお出かけ中と思われる子らの様子を見るに、その習慣は今も変わりがないらしい。
「ミオ、もうすぐ家に着くよ。下道は混んでなかったから、ちょうどおやつの時間に帰ってこれたな」
「どこどこー? ここから見える?」
ミオが身を乗り出して辺りを見回していると、二十メートルほど先で、ガレージの門扉を開けながら、手を振って出迎えるお袋の姿が目に入った。
下道に下りてすぐ、もうじき着くという連絡をするために寄ったコンビニの駐車場にて、お袋に電話を入れておいたから、俺たちが帰って来た時、スムーズに車庫入れができるようにと、気を回して待っていてくれたのだろう。
その好意に甘えて車庫入れをしていると、お袋が満面の笑みを浮かべて助手席の方へ駆け寄り、初めて見る、実物のミオに両手を振って挨拶した。
「ミオちゃーん、お帰りなさい」
助手席で、ウサちゃんのぬいぐるみを抱っこしたままのミオは、お袋の予想以上の歓迎に戸惑いながらも、深く頭を下げ、挨拶に応える。
「たっ、ただいまぁ」
「はは、驚いたかい? お袋は来客を迎える時は、いつもあんな調子なんだ」
「そうなの?」
「うん。特に小さな子供にはね。もっとも、ミオはもう俺たちの家族だから、来客って言葉は適切じゃないんだけどさ」
「……嬉しいな」
お袋の笑顔と俺の話で多少は緊張がほぐれたのか、ミオは肩の力が抜け、いつもの自然体に戻ったようだ。
途中で道路渋滞に巻き込まれ、予定外のタイムロスは余儀なくされたものの、約三時間のロングドライブは無事終わり、ミオを実家に連れて帰る事ができた。
この日を待ち望んでいたお袋には、さぞや積もる話があるのだろうが、まずは荷物を運び入れ、ひと息つかせてもらうことにしよう。
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