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46.花火で遊ぼう!(16)
「おやぁ? 塩をひとつまみ振りかけてみたら、ちょっと味変したというか、不思議な甘さになったな」
「アジヘン? お魚さんのこと?」
「いや、味変は簡単に言うと、味を変えようとしたり、もしくはすでに味が変わった状態の事を言うんだよ。要は省略した造語ってとこかな」
「そうなんだ。じゃあアジヘンは、スイカにお塩をかけて食べたら、味が変わっちゃったってことだよね?」
「うん。最初はちゃんと表面に塩の味がするんだけど、かぶりついて口の中で味わってみたら、スイカの甘みがいつにも増して、ブワーッと広がっていくんだ」
「へぇー、不思議だね。それがさっきお祖母ちゃんが教えてくれた、タイヒコーカなのかな」
「たぶんそうだろうな。でも、塩をかけて味が変わる食べ物ってのは、スイカだけなのかね? 俺が昔見たテレビドラマの再放送だと、トマトにも塩を振っているシーンがあったような……」
「トマトにも? 野菜にお塩をかけるのって変わってるねー」
ミオと密着しそうなくらい隣り合わせで座って、塩をかけていただく食べ物の話に花を咲かせていると、後ろで聞いていたお袋が、すかさず補足を入れてきた。
「それ、萩原健一 が主演だった、『傷だらけの天使』のオープニングの事じゃないかしら」
「あ、そういやそんな名前だったか。確かあのオープニング中は、トマトの他にコンビーフも食べてた気がするけど」
「じゃあ間違いないわ。食べ方こそ上品ではなかったけれど、まるまる一個のトマトに塩をかけてかぶりつく様は、さぞや印象的だったのでしょうね。当時、あのシーンを真似する男の子は多かったらしいわよ」
「へぇ、そんなに影響力が強かったんだね。でも実際に、トマトに塩をかけたらどうなるんだろ?」
「トマトは、スイカとはちょっと事情が違うかも知れないわね。トマトへの塩は単純に、おいしく食べるためにかけてたんだから」
二切れ目のスイカを食べながら、お袋の話を黙って聞いていた親父が、突如として何度も頷き、自分も同意見である意思を示す。
「つまりお袋。トマトの場合は、甘くするために塩を振っていたんじゃないってことかい?」
「ええ。少なくとも、わたしたちの周りではね。今の品種とは違って、昔のトマトは酸っぱくて、とてもじゃないけど味がいいとは言えないものが多かったのよ」
苦笑いを浮かべながら当時のトマト事情を明かすお袋の昔話を聞くに、どうやら『傷だらけの天使』が放映中の頃、お店に並んでいたトマトは、さぞや酸っぱかったらしい。
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