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46.花火で遊ぼう!(20)
そりゃあ落とし物で通じるわけないよな。ミオのように幼い子が額面通りに受け取ったら、猫がさも、何かを携 えて歩いているかのような意味でしか捉えられないんだから。
「ねぇお兄ちゃん。猫ちゃんって何を落とすの?」
「え!? い、いやその、何と言うか。たぶん、口にくわえた魚とかじゃないかな」
「んー? お兄ちゃん、さっき『なるほど』って言ってたのに、分かんないの? ほんとは、何か隠してるんでしょ」
うぐっ、さすがに耳ざといな。子猫系ショタっ娘ちゃんが持つ、鋭い聴覚と勘、そして洞察力の前では、大人の賢 しいごまかしは通用しないようだ。
真実を知っているのに、突然すっとぼけようとした俺に訝 しさを覚えたミオは、ぐいっと身を乗り出すと、頬を膨らませながら、俺の顔を覗き込んできた。
「おーにーいーちゃーん?」
「わあ! 分かった分かった。ちゃんと説明するから、とりあえず、ヘビ花火が無いか、袋を探ってみようよ」
「むー。ほんとに教えてよね」
お袋の独特な言い回しで、猫の落とし物の意味を理解したのはいいものの、それを口に出したがゆえに、とんだヤブヘビになってしまった。
親父は親父で、微笑ましそうなのか、あるいは単なるにやけ顔かも知れないが、さっきから何も言わず、黙って俺たちのやり取りを見物している。
自分からヘビ花火の話を持ち出しておいて、大事な説明は人任せにして口をつぐんでしまうんだから、薄情もいいところだぜ、親父。
「えーと、これは丸型だけど、回転花火って書いてあるから違うとして……おっ。あったあった。これだよミオ」
「どれどれー?」
まだ見ぬヘビ花火に興味を示したミオがウズウズしているのを見るに、袋から現物を取り出すのが相当待ち遠しいようだ。
「ほら、この袋に『蛇玉 』って書いてあるだろ? これが親父の言ってたヘビ花火なんだよ」
「んん? これが花火なの? 真っ黒で丸っこくて、何だか碁石 みたいだねー」
ミオ、その歳でもう碁石を知っているのか。
もっとも、厳しい教育方針の児童養護施設で、テレビやゲームに無縁な生活を送ってきたから、知育の意味も兼ねて、アナログな囲碁や将棋に触れてきたのかも知れないな。
「まぁ大きい碁石みたいではあるけど、一般的には花火って分類だから。一応ね」
「じゃあ、これに火が点いたらにょろーんと伸びるの?」
「そうだよ。百聞は一見にしかずと言うし、実際に遊んでみようか」
「うん。でもお兄ちゃん、これってどこを持てばいいのー?」
ミオは袋から取り出したヘビ花火を手に取ると、表裏にひっくり返したり、匂いを嗅いだり、様々な角度から眺めてみたりして、その構造を詳しく調べ始めた。
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