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46.花火で遊ぼう!(21)

「説明書きが無いから分かりにくいけど、ヘビ花火は手に持つタイプじゃなくて、平らな地面に置いて遊ぶものなんだよ」 「そうなんだ。こんなに薄くて小さいのに、にょろーんと伸びるのが想像つかないなー」  たぶんミオとしては、質量保存の法則という観点で、薄っぺらなヘビ花火が伸びていく仕組みが分からないと言いたいのだろう。  無理もないな。何しろ、ここにいる大人三人が集まっても、文殊の知恵がさっぱり湧き出てこないもんだから、ただ「以前遊んだ時に伸びたのを見た」という経験でしか説明ができないのである。  ただ、ヘビ花火は燃焼によって伸びはするものの、質量が増えたりはしないはずだ。  何か変化があるとするなら、せいぜい、燃えカスから発生した、微量な二酸化炭素が逃げていく程度だろう。  俺は文系だから化学には疎いんだが、ヘビ花火も森羅万象のご多分に漏れず、質量保存の法則の例外にはならない事くらいは分かる。  ただ、ひたすらに純粋で、今でもサンタクロースが実在すると信じているミオに、そんな夢のなさそうな話をしてもなぁ。  時が経てば、この子もいずれは質量保存の法則を学ぶ機会が訪れるだろうし、今は黙って、ヘビ花火がにょろーんと伸びる様を見て楽しむ事にしよう。 「義弘。ヘビ花火に火を点けるのなら、これを使いなさい」  俺にそう声をかけるお袋の右手には、先端に火が灯され、煙から白檀(びゃくだん)の香りがする、一本の線香が握られていた、  ひとまず、一個目のヘビ花火をフラットな地面に置いたは良いものの、親父が買いだめしておいたマッチ棒で点火を試みようものなら、お互いの距離が近すぎて、最悪火傷するおそれがある。  だからこそお袋は、長い棒状の線香を使って、燃焼している先端だけをヘビ花火に近づけ、比較的にヘビ花火から距離を取った、安全な点火をさせようと考えたのだろう。  さすが、柚月家で最もヘビ花火の別名に詳しい母上だよ。 「ありがとう。それじゃ、さっそく使わせてもらうよ。ミオ、ヘビ花火を平らなところに置いてみてごらん」 「うん。一個でいーい?」 「いいよ。最初は一個だけ火を点けて、どんな動きをするのかを観察してみようね」 「はーい。楽しみだなぁ」  ヘビ花火は燃焼すると大量の煙を吐き出すので、俺たちは風上へと移動し、地面に置かれた一個のヘビ花火に線香を近づけ、そして火を灯した。  すると、火の点いた真っ黒なヘビ花火は、やや黄色がかった煙の中からニョキっと顔を出し、燃焼することによって、俺たちが予想だにしない方向へと伸び続けていく。

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