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46.花火で遊ぼう!(38)

「ボク、牡丹のお花は見たことあるよー。『お花の王様』って言われるくらい綺麗なの。でね、ボクが一番好きなのが桃色のお花で、花びらがいっぱい重なって咲くんだよ」 「ほうほう、お花の王様かぁ。それじゃあ、花言葉もさぞや威厳があるんだろうな」 「うん、そうだよ。牡丹の花言葉はいくつかあるんだけど、お花の王様っていう意味だったら、『王者のフーカク』って花言葉が一番近いかもだね」 「フーカク? フーカク……ああ、風格って事か。さすが、ミオはお花に詳しいんだね」 「えー? そんなことないよぉ。ボクは施設とか、学校でお世話してたお花の種類しか分かんないもん」 「それでも、牡丹とその花言葉を知ってたら結構な方じゃないか? 俺なんて、薔薇とかチューリップだろ。後は夏休みに観察日記をつけた、朝顔くらいしか目に止まった事がないからね」  なんて話をしていると、線香花火は牡丹から次の、松葉へと移行しようとしていた。 「でも、お兄ちゃんはコスモスも知ってるでしょ? ボクのランドセルと、リュックサックに付けるピンバッジを買ってくれたし」 「あ。そういやそうだったな。花言葉が『乙女の愛情』だから、ミオにぴったりだって教えたのを思い出したよ」 「もぉー。それはお兄ちゃんにだけなんだからねっ」 「はは、分かってるって」  ミオは行く先々で、「お嬢ちゃん」とか「娘さん」、あるいは「妹さん」などと呼ばれる事がよほど心外なのか、そのつど驚いたり、呆気に取られて放心状態になったりする。  するのだが、俺に女の子扱いされることだけには、一切の抵抗がないらしい。  その心情を推し量るに、たぶんミオは、俺のお嫁さんになりたいという強い願望が叶うのならば、自分が女性として振る舞うことも(いと)わないのだろう。  二十七年間生きてきて、そこまでしてでも俺と結婚したいと言ってくれた恋人は、ショタっ娘のミオただ一人だけだった。  俺は俺で、ミオとの生活を続けていくうちに、ショタっ娘の魅力に惹かれていき、恋をして付き合うようになり、この子を花嫁として(めと)る決意まで固めたのだから、何とか実現までこぎつけたい。  なぜそういう決意を固めたのかと問われたら、「幼い恋人の夢を叶えてあげるため」なんて答えれば、さぞやカッコよく聞こえることだろう。  だが、穿った見方をする人には、単純に自分の世間体を保つために、大人の《《こすい》》知恵を働かせた、言い訳がましく聞こえるおそれもある。  なぜなら、聞いた人によっては、その答えの中に「ミオが望むから、仕方なく叶えてあげる」という、斜に構えたニュアンスが内在していそうな、悪い印象を与えかねないからだ。  ただ、いくら言い訳がましくても、まだ十歳の男の子を嫁さんにもらうなんて、普通はできない事なんだけどな。

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