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46.花火で遊ぼう!(37)
「んん? お兄ちゃん、線香花火って不思議だねー。赤い部分の先っぽがくるくる燃え上がって、まん丸い玉ができたよ」
「な、変わってるだろ? 最初はこんな感じで一見地味だけど、線香花火には、火花の散り方にいくつかのパターンがあるんだ」
「パターン? いきなりシュワーって勢い良くなるとか?」
というミオの想像をもとに、次の段階で、こよりのごとく細長い線香花火から、一般的な手持ち花火のように火花がほとばしる様を思い浮かべてみたが、正直それなら線香花火じゃなくてもいいんだよなぁ。
もっとも、そんな身も蓋も無い事を口走って、この子が働かせた想像力に水を差しても仕方がない。こういう場合、里親である俺は何も言わず、その目で成り行きを確かめさせる事にしている。
「まぁ、それは見てのお楽しみだな。ちなみに一般的な線香花火には火花の散り方が四段階あって、今ある火の玉はその初っ端なんだよ」
「へぇー、ちょっとだけ火花がチリチリしてるね。これがショッパナなの?」
「うん。この初っ端を、花びらが開く前の状態から着想を得た……かどうかはハッキリ言えないんだけど、とにかく、この火の玉は〝蕾 〟って名前が付いているんだよ」
「そうなんだ? じゃあ他の花火とは違って、次の段階の火花にまで、細かくお名前を付けられてるって事だよね」
「その通り。ちなみに次は〝牡丹 〟と言って……」
俺がそこまで解説した直後、蕾から花びらが開くというより、まるで木々から枝葉が伸びるかのごとく、火花が四方八方へ飛び散り始めた。
「わぁー! 綺麗だね、お兄ちゃん。さっきまで大人しかったのが嘘みたい。これがボタンなんでしょ?」
「そう、牡丹。分かってると思うけど、一応説明すると、これはお花の方のボタンから名付けられたんだ」
「え、そうなの?」
ミオが華やかな火花の散りから目を切り、俺の方を向いて、ボタンの由来を聞き直してきたところから推察するに、どうやらこの子は頭の中で、衣服に用いる釦 の方に変換してしまったらしい。
そりゃ無理もないのか。一番最初の蕾が花から名付けられたと言っても、次の段階がどういう火花の噴き方をするのか知らないなら、ずっと花繋がりで名付けをするとは考えにくい。
だからこそ、ミオはミオなりに、ボタンが何を指すのかを考えて、最も身近な釦に変換したんだろうな。
かくいう俺も、牡丹という花の名前こそ知っているものの、実物を目にした事は一度もない。
もしも、牡丹を知らない俺がここに居合わせたとしたら、その字面を目にしても、おそらく和菓子か何かの名前だと思い違いしていた事だろう。
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