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46.花火で遊ぼう!(36)

 例えば南欧の国なら、スペインやイタリアなどでは、互いの頬にキスする『チークキス』というコミュニケーションの手段がある。  ただ、それはあくまでスキンシップというか、挨拶の一環という意味合いが強いし、実際に口づけをするわけではないので、恋人にするキスとは趣旨が異なるのだ。  養育里親という立場でミオを迎え入れた俺が、十七も歳が離れている里子のショタっ娘に口づけをするのは、相当にヤバい行為なのではないだろうか?  やっぱり、お互いの唇を合わせるソフトキスは、ミオとの結婚式を挙げる、大一番までお預けにしとかなきゃかもなぁ。 「お兄ちゃん、どうしたの? 何か考えごと?」  俺が線香花火の束を握りしめたまま、満天の星空を見上げ、しばらくボーッとしていたので、心配したミオが声をかけてきた。 「あ、いや別に、大した事じゃあないんだ。さ、そうと決まったら、一本ずつ持って、ろうそくで火を点けてみよう」 「はーい。こっちの、ピンクのヒラヒラのある方が、持つ方になるんだよね?」 「うん、それで間違いないよ」  いかにおもちゃ花火とは言っても、火を使って火薬を燃やす事には変わりないので、遊び方を間違えたり、悪ふざけをすると、どうしてもヤケドを負う危険が伴う。  ただ、厳しい教育方針の児童養護施設で育ち、(しつけ)が行き届いているミオは、タチの悪いおふざけで他人に迷惑をかけ、ヤケドをさせるような真似だけは絶対にしないだろう。  よって今の問いは、ミオが失敗談を教訓とし、間違った遊び方をした俺の二の舞いにならないよう、念入りに確認を行ったのだと思われる。 「あっ、一緒に火が点いたね。お兄ちゃん」 「よしよし。それじゃあバケツの近くに戻って、火花の散る様子を眺めるとしますか」 「そだね。でもこんなに細くて、あんまり火薬が詰まってないように見えるけど、これでも他のに比べて、長く遊べるものなの?」 「俺も花火職人じゃないから、それに関してあんまり役に立つ答えを出せないんだけど、線香花火の場合は、じっくり燃えていく感じなんだよね」 「ふむふむ?」 「分かりやすく言うと、火薬の燃える勢いが違うってことかな。一般的な手持ち花火だと、シュワーッと景気よく火花を噴いていくから、案外すぐ終わるのもある」 「それって、ボクたちが最初に遊んでた、ヒラヒラに火を点ける花火とかのことだよね」 「そうそう。でも線香花火は――」  自分が知っている限りの知識で、ミオに線香花火の説明を続けようとすると、火の点いた花火の先端から火薬にまで達するや否や、あっという間に丸っこい火の玉を作っていった。

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