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46.花火で遊ぼう!(35)
「ミ、ミオ。大丈夫だよ。さっきも話した通り、間違えたのは子供の頃だし、ヒラヒラが燃え出したのを見た親父がすぐに取り上げてさ、バケツに突っ込んで火を消してくれたから、何とか事なきを得たんだ」
「そうだったの? 良かったぁー」
ヤケドを負わなかったという話を聞いて安心したミオが、優しく包んでいた俺の右手をそっと離し、胸を撫で下ろした。自分の事でもないのに、ここまで親身になって、ヤケドの有無を心配してくれるのは嬉しいよなぁ。
たぶんミオの反応こそが、彼氏を大切にしている彼女が取る、普通のリアクションなんだと思う。
「心配してくれてありがとな、ミオ」
「そんな、お礼を言うような事じゃないよー。大好きなお兄ちゃんがケガしたり、病気にかかったりするのは嫌なだけだもん」
「うん。それでも嬉しいよ。ありがとう」
「もう、お兄ちゃんってばぁ……」
重ねて感謝されたミオは、さっきまで俺の右手を包み込んでいた、小さな両手の指を胸の前で絡め、照れ笑いによって、頬がほの赤く染まっていった。
はぁ、めんこい。今更言うまでもない事だが、ミオは、奥手でぶきっちょで、女運にも恵まれなかった俺にとっては、百点満点中で百二十点の彼女だよ。
「ミオ、次はその線香花火で遊んでみる? 他に転がってる残りは、だいたい似通った手持ち花火みたいだけど、これは火花の散り方が独特だよ」
「そうなの? 何だか見た感じの細さで、すぐ終わりそうな気がするけど」
「まぁそうだな。ミオの見立ては、概 ね間違ってないよ。線香花火を長く遊ぶなら、ヒラヒラを吊るすようにつまんで、かがみ込んだ状態で、火花の散り方を見て楽しむのが一番いいだろうね」
「ふむふむ、面白そうだねー。束になるくらいたくさんあるし、お兄ちゃんも一緒に遊んでくれる?」
「ああ、いいよ。二人で一緒に遊ぼう」
途中で休憩を取ってスイカを食べたり、性格の悪い元カノの話が膨らんで結構な時間を使ったから、今日の花火のシメは線香花火で決まりそうだな。
それにしても、まさか今日、親父たちの目につかない死角を利用して、二度目のキスをしてもらえるとは予想だにしていなかったな。元カノのドタキャン話は苦い思い出だったけど、それが現・彼女である、ミオの対抗心を燃やす燃料になったのかも知れない。とにかくラッキーだった。
ところが、である。
恋愛に関して、女性との付き合い方が上手いとは言えない俺の方から、ミオにキスした事はまだ一度も無い。
果たして、十七歳年上な大人の立場から、ショタっ娘ちゃんに対して、一体どんな場面の、どんなタイミングで口づけをすれば、自然に受け入れられるんだろうか?
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