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46.花火で遊ぼう!(40)

 一般的に目にする、土手やあぜ道に咲く彼岸花には、花から根っこまで、満遍(まんべん)なく毒がある。もちろん個人差や個体差はあるが、彼岸花の球根をひとかじりしただけでも、嘔吐したり、呼吸困難に陥ったりして、最悪の場合は死に至るほど危険な植物なのだ。  その毒によって、直近で誰かが命を落とした例があったのかどうかは、いつも調べ物に活用するスマートフォンをリビングに置いてきたため、現時点でハッキリとは断言できない。  ただ、彼岸花の毒でそういう例があった事を裏付けるかのように、『地獄花』や『死人(しびと)花』、『幽霊花』などなど、とても穏やかだとは言えない別名を付けられ、今日(こんにち)まで畏怖(いふ)され続けてきたのである。  特にミオには知って欲しくない別名は、やはり彼岸花に付けられた、『捨子花』というものだ。  この子の生い立ちが、わずか二歳で捨て子にされたという不幸なものであっただけに、追い打ちをかけるような知識は蓄えて欲しくないと、俺は思うのである。  ただ、彼岸花は悪いところばかりではない。花が開き、並んであぜ道に咲くその様は美しく壮観であるし、開花情報をチェックして観光地へと足を運び、花畑の鑑賞を楽しむ人だっている。  つまり彼岸花は、縁起でもない別名で呼ばれる事はあるものの、あくまでアンタッチャブル(触れてはならない)なだけで、ただ見るだけならば、何ら被害を受ける事はないのだ。  余談だが、俺の親父よりもさらに昔の世代で、食糧難にあえいでいた人たちは、手間暇をかけ、毒抜きをしてまで食べていたらしい。  彼岸花を食べられるようにするのが悲願だったという意味で付けられた、『悲願花』という、言葉遊びのような別称も一応ある。  もっとも彼岸花の毒抜きなんて、よほど手慣れた人でもなければ完璧にできない事なので、ズブの素人が、見よう見まねでやろうなどという、浅はかな考えを起こしてはならない。  よって俺は、やれ捨子花だとか、毒抜きしてまで食べるといった、まだ知らなくてもいい情報は一切カットして、これだけ伝える事にした。 「彼岸花、結構良いんじゃないか? 火花の散り方もそれっぽいし、例えば仏教の場合だと、天上界に咲く花という意味で、『曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』って呼ばれるほど、ありがたいお花みたいだしさ」 「天上界……お空の上?」 「まぁ、イメージとしてはそんな感じかな。曼珠沙華について詳しく説明すると、ちょっと難しい話になるけど、聞いてみる?」 「うん、聞かせて! ボク、お兄ちゃんのお話ならたくさん聞きたいよ」

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