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46.花火で遊ぼう!(41)

「はは、そっか。じゃあ詳しく話すよ。はるか昔に、釈迦(しゃか)という仏教の創始者がいた事は知っているかい?」 「釈迦? もしかして、ブッダさんのこと?」 「んー、いいとこ突いてるけど惜しい! 仏陀(ぶっだ)は、厳密には人の名前じゃないんだよ」 「え。そうなの?」  ミオは仏陀(ブッダ)の事を人名だと思い込んでいたからこそ、「さん」を付けて聞き返したのだろうが、実はこの思い違いはよくある。  なぜなら、「漫画の神様」と呼ばれた手塚治虫先生は、自らが手掛けた著作である、釈迦ことゴータマ・シッダールタの生涯を描いた漫画のタイトルに、『ブッダ』と名付けたからだ。  これは市営の図書館、あるいは学校の図書室でも言える事だが、本の中身がたとえ漫画であろうと、知識の吸収として役に立つのならば、その漫画が本棚に並ぶ事は普通にある。  それを踏まえた上で、俺はブッダという題名の本に見覚えはないか、ミオに尋ねてみた。  ミオはその問いに対し、「けっこう前の話だから記憶がおぼろげだけど」という前置きをした上で、かつて育てられた児童養護施設にて、偉人の伝記漫画という扱いで並んでいる、『ブッダ』の表紙を見た覚えはあるとの事だった。 「仏教では、悟りを開く事を仏陀と呼ぶから、この世で初めて悟りを開いたとされる、釈迦が仏陀の代名詞になっているという意味では、合っているのかも知れないね」 「んー? じゃあ、ブッダさんは他にもいるってこと?」 「まぁそこなんだよな、説明が難しいのは……」  正直、仏教で用いられる専門用語を交えて、彼岸花が曼珠沙華と呼ばれる理由を説明するにあたり、釈迦と仏陀の違いや、その由来を含めて説明するのはとても難しい。それは話す方にとってはもちろん、聞く方にとっても同じ事だ。  仏陀と釈迦は同じ人名だ……と思っていたミオにとっては新事実なのだが、それが頭の中でこんがらがり、理解が追いつかなくなるのではないかと心配になる。 「仏陀と名の付く覚者となった人物は、釈迦だけだ」  という説が現在でも強く信じられている事もあるし、ミオのように、たまたま目にした漫画の影響が色濃く残っているため、(仏陀は釈迦の別名では?)と思い込んでしまうのも、無理からぬ話ではある。  また、釈迦以外で悟りを開いた人は『阿羅漢(あらかん)』と呼ばれ、仏陀とほぼ同義であるようなのだが、宗派によっては、仏陀と阿羅漢は全く別のものだという解釈がなされているのも、混乱をきたす要因になっている。  日本に根付いた仏教は、釈迦が存命だった初期仏教から、はるか未来の出来事である仏教伝来を経て、そこからさらに宗派の枝分かれを起こし、現在に至る。この枝分かれは他の宗教においても同じ事であって、仏教だけに限定された話ではない。  つまり、一口に仏教と言っても、日本国内でもゆうに百を超える宗派が存在するため、仏陀と阿羅漢の明確な定義を、「これだ」と統一させて発表するのは極めて難しいのである。

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