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46.花火で遊ぼう!(42)

 歴史を初期仏教まで(さかのぼ)ると、大乗仏教(だいじょうぶっきょう)の覚者が仏陀で、小乗仏教(しょうじょうぶっきょう)における覚者は阿羅漢だ、という区別がなされている文献がある。  じゃあ、大乗仏教で悟りを開いた人物は、全員仏陀と呼ばれるのかというと、「その通りだ」と答える人もいれば、「そうではない、そのお方は阿羅漢だ」と唱える人もいるのだ。  かように意見が分かれ、仏陀と阿羅漢の定義がハッキリしないため、あらゆる人の話を聞き、資料を読み漁っていた学生時代の俺は、頭がこんがらがるばかりだったのである。  よって俺は、彼岸花と仏教にまつわる話を続けるにあたり、確実性が高いとは言えない情報は、できるだけカットする事にした。  その上で、最も信憑性(しんぴょうせい)が高く、有力とされる説を伝える事に力を注ぎ、十歳のショタっ娘ちゃんにも分かりやすい言葉を選んで、慎重に解説を進めたのである。  その解説がまた、話が広がるにつれ、相当に神経をすり減らす作業だったので、脳みその疲労度が尋常ではなかった。  でも、かわいいミオのためだもんな。この子にはたくさん学んで、たくさんの知識を吸収して、立派な大人になってもらいたい。  その手助けをするためには、一番身近にいる俺の頑張りが必要なんだ。疲れた自分の脳みそには、後で板チョコの一かけらでも差し入れて、ケアしてあげよう。 「――で、仏陀となった釈迦が教えを説いた時、彼岸花が天上界から舞い降りて来たという言い伝えから、とてもありがたい花だと信じられている事もあるんだよ」 「じゃあ彼岸花は、最初は『曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』って名前が付いてたってこと?」 「んーとな。曼珠沙華は、サンスクリット語の名前を日本語読みにして漢字を当てているんだけど、その字を口で説明するのは難しいなぁ」  俺は、松葉の勢いが弱まりつつある線香花火を眺めながら、空いている方の手で顎をさすり、かつて学んだ歴史の記憶を呼び起こしにかかる。 「それって、ボクが知らない、難しい漢字を使ってるってお話?」 「そうだな、確かに難しいよ。曼珠沙華はもともとが当て字っぽいし、尚更ややこしいんだよね」  ……と答えるだけなら簡単だが、ミオは何が決定的にややこしいのか、肝心な理由が分からない。そこも含めて説明しなければ。 「現存する文書の中で、日本で初めて、曼珠沙華って書き残したものだと、一番古くてもだいたい六百年くらい前だから、割と最近の話でさ」 「え!?」  何か引っかかるところがあったのだろうか、目を丸くして驚いた様子のミオが、もの凄い勢いで俺の方へ顔を向けた。

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