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46.花火で遊ぼう!(43)

「あ、あれ? 俺、何か変な事言っちゃった?」 「変だよー。だってお兄ちゃん、六百年前を『最近』って言うんだもん」 「はは、確かにそりゃ変だな。ごめんごめん。でも、釈迦が生きていた時代はさらに昔でさ、諸説あるけど、およそ二千六百年前だって言われてるんだよ」 「えー? そんなに昔なの? じゃあ二千六百年前に、彼岸花が曼珠沙華って名前だったのかは分からないんだね」 「まぁそういう事だな。彼岸花の歴史まで喋りだしたらキリがなくなるから止めておくけど、とにかく仏陀にまつわる伝説を思い浮かべれば、そんなに縁起の悪い花でもないだろ?」 「うんうん。ボク、施設にいた時に『彼岸花だけは触っちゃダメ』って教えられて怖かったけど、ありがたいお花でもあるんだね」  一応、触るだけなら彼岸花の持つ毒に蝕まれる心配はないという話だが、幼い子供たちの中には、何でも口に入れてしまう、良くないクセを持った子もいる。  その子が彼岸花の毒について何の知識も持たないまま、花を摘んで口に運んだら、それこそ一大事になる。施設の大人たちはそれを防ぐために、あえて怖がらせて、触る事を厳しく禁じていたのだろう。 「触っちゃダメなのは念のためだな。それはそれとして、線香花火の松葉を彼岸花に例えるのは、俺は大いに有りだと思うよ」 「そう? 良かったぁ」  ミオも当初こそは、自分のネーミングセンスに自信が持てない様子だったものの、俺の長話を聞いてからは、いつもの元気一杯な、明るい表情に戻っていた。  まさか、学生時代に得た知識が、こんな形で蘇って結びつき、ミオの自信を取り戻す原動力になるとはね。  脳みそは疲れたし、話を終えた頃には、二人の線香花火もすっかり消えてしまっていたけれど、この話と経験がミオにとってのいい思い出として、ずっと残り続けてくれれば嬉しいな。 「義弘、そろそろじゃない? もうすぐ九時半を回るわよ」  空になった麦茶のグラスとポットを片付け、ついでに時計を見てきたお袋が、俺たちに現在時刻を告げる。 「え? もうそんな時間なんだ? あっという間だなぁ」 「そだね。楽しい時間って、いつもすぐ終わっちゃう感じがするよー」 「ほんとにな。じゃあ、今日はこのくらいにして、残りの花火はまた明日の夜、俺たちが買ってきた花火セットと一緒に遊ぶとしよっか」 「うん! そうしよ!」  これが外出先ならともかく、今遊んでいるのは実家の庭なので、もしもミオが「もうちょっと遊びたい」と、延長のおねだりをしてきたら、俺はあっさり認めていたと思う。

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