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48.ショタっ娘とスローライフ(20)

 ちなみに本作は、アニメのシナリオを原作にして、某漫画家が描いた白黒のコミックス版も存在するのだが、この子は全く興味を示さなかった。  本人いわく「絵柄が違うから」とのこと。  まぁ、往々にして挙げられる理由だよな。だから何も、プリティクッキーだけに限定された話じゃあない。  むしろ逆に、とある漫画がアニメ化はもちろん実写映画化されたり、舞台になったりしたりするケースもある。ミオが苦手な横文字で言い表すと、それは、いわゆるメディアミックスという戦略だ。  かような戦略で、違う媒体にて売り出されたものを見た人が「何かが違う」と感じるのはごく自然な反応だし、伝え方や受け取り方によって、合う合わないが出てくるのも、やむを得ない事だと俺は思うのである。  極端な例だが、シリアスな某漫画がついに実写映画化すると聞いて、原作をどこまで再現してくれるのかと、その予告編から期待を寄せる原作ファンは相当数いたと記憶している。  ――かと思ったら、いざ封切りされた本編で、主人公に「あー、俺、デーモンになっちゃったよー」なーんて、軽い調子で言われちゃうんだから、観ている方も拍子抜けしちまったんだよなぁ。  あの映画に関しては、CGをふんだんに使った迫力あるバトルと、忠実な原作再現度を当て込んで、映画館まで足を運んだところまでがピークだったな。  話が若干それてしまったが、要するに、漫画家の画力がうんぬんという問題じゃなくて、単純に、ミオがアニメ作画や塗りに惚れ込んだ結果、絵柄が異なる漫画の方に違和感を覚え、別物だという判定を下したのだろう。  もし、入り込んだのが逆のパターンだったら、ミオはたぶん、同じ理由でアニメを見なかったかも知れないんだからね。 「お兄ちゃんは子供の時、よく、この本屋さんに来てたの?」  ミオが店に入ってすぐの、自動ドアの横に設置されているマガジンラックに目をやりながら、俺の若かりし頃を尋ねてきた。 「そうだなぁ。足繁(あししげ)くってわけじゃないけど、なにぶん、実家の近所は田んぼや畑ばっかりだったからね。でも、よく通うようになったのは、俺が中学生になってからだったと思うよ」 「ふーん。中学生のお兄ちゃんは、ここでどんな本を買ってたの?」 「え? ……そりゃあ、いろいろだよ」  問いかけに答えるまで、ちょっと間が空いてしまった事に加え、それがいかにも茶を濁したように曖昧な内容だったからか、ミオの眉毛が即座に反応した。

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