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51.帰路にて(12)
「で、そのインターセ、じゃない、ネットは、さっきミオが言った通り、通信の仲間だね」
「うんうん。でも、どうしてお手紙も通信って呼ぶの?」
「そこなんだよなぁ。いくら調べても、結局正解に行き着かなかったのが、通信という単語の語源なんだよ」
「ゴゲン?」
「そ、語源。単語の源 ね。例えば通信の場合だと、一体いつ、誰によって、どういう意味を持たせて生み出した単語なのか……という記録がどこにもないんだ」
「うーん。すっごく難しいお話だね。でも、お兄ちゃんが調べたいことって、通信以外にもたくさんあるんじゃないの?」
「え。どういう事だい?」
他府県ナンバーの車が多い中、安全運転で帰ることを第一として集中しているがゆえに、今しがた、ミオの提起した疑問に対する理解が鈍ってしまった。
「ほら、日本語はそういう言葉がいっぱいあるでしょ? 皆、普通に使ってるけど、いつ、誰が作ったのか分からないのが」
「ああ、キリがなくなってるんじゃないか? って話だね。ミオの言う通りだよ。ふとした時に、何気なく使う言葉の語源を調べるのが、いつの間にか癖になっちまったんだな」
という話をしていると、また道が混んできたので、俺はカーナビに目をやる。道の混み具合は目の前を見れば歴然だし、過去に何度も通ってきた道だから、道案内もいらない。あくまで現在時刻を確認するために見たのだが、三時のおやつを食べるような時間は、とうに過ぎていた。
「ふーん。お兄ちゃんはボクくらいの年ごろから、ずっとお勉強熱心な子だっんだね」
「まぁ、それなりにね。どの教科が得意だったとかは特にないんだけど、雑学の方に興味を持った結果が今の俺なんだろうな」
「ざつがく……」
ミオはそう呟 くと、「雑学」という単語にはどの漢字を当てるのか、目の前の空間に、人差し指で書き始める。
「雑学ってのは例えば、さっき話した手紙も通信に含むとか、文通の文は手紙って意味だったみたいなやつの事だよ。分類すると〝豆知識〟あたりが一番近いかなぁ」
「そうなんだ! 豆知識ならボクでも分かるよ。施設にいた時に読んだ、『世界の偉人列伝』っていう本の端っこに書いてあったの」
「ほー? 世界の偉人ねぇ。もしかしてその本、子供でも分かりやすいように、漫画で書いてあったんじゃないか?」
「うん、そうだよー。普通の漫画は読んじゃダメだから置いてなかったけど、『偉人の本は知識になるから読んでもいいよ』だって」
昨日、二人で花火遊びをしていた時に、ミオは手塚治虫先生の著作『ブッダ』の表紙を見かけた記憶があると言っていた。施設に勤める職員の判断で、あの本も偉人伝に分類したがゆえなのだろうが。
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