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52.夏の終わりに(22)
かつて、興味が赴くままに人工衛星にまつわる調べ物をした際、「なぜ人工衛星は落ちないのか?」のような、ありふれた疑問への解答こそ多く見かけたけれど、「予測外のアクシデントにより、地球の周回軌道から離れた人工衛星は、その後どうなるのか?」という、正反対の事象そのものに関する解説を見聞きした覚えがない。
なぜ見聞きできなかったのか? という疑問に対する答えを俺なりに推測すると、おそらく地球の軌道から飛び出し、スペースデブリ(宇宙ゴミ)と化した物体に費やす時間と金がもったいないとか、そんな理由なんじゃないかと思う。
そもそも、無事に軌道を周回できる構造の設計に基づき、技術の粋を尽くして製造されたものが人工衛星である。製造・開発に要する人員や日数、費用諸々を考慮したら、とてもじゃないが失敗なんて許されない。
万が一、何らかの原因で地球からオサラバするような事態を想定したところで、元の軌道に戻す手段がないのなら、その想定はただの徒労に終わる。
「うーん、その質問はさすがに想定外だったな。ただ、宇宙をフラフラと漂うだけじゃあないと思うよ。あくまで俺の予想だけど」
「そうなんだ。でも、すっごい速さで地球から出たら、星にぶつかったりしない? 夜にお空を見たら、いっぱい星が見えるでしょ?」
「……そうだね」
ミオの推論は一理あるから否定はしなかったけど、そうそう衝突するものなのかねぇ。
ちなみに。都会はともかく、この実家がある咲真 市は相当な田舎なので、満天の星空を気が済むまで拝む事ができる。
都会で星が見えない原因として、やれ光化学スモッグとか、街のネオンや街灯などの光が邪魔して明るすぎるから、などの理由が挙がる。どう作用してそうなるのかは知らないけど、学者や学校の先生が異口同音 に唱えるから、たぶんその二つのせいなんだろう。
「星にぶつかる危険性は確かにあるな。遠隔操作で移動できないなら、そのままどっかに飛んでいってしまうし。ただ――」
「んん? ただ?」
「星にぶつからない、ずっと漂い続けない場合は、他にもある惑星の衛星になる可能性もあるんじゃないか?」
「他の惑星?」
「そう。どっちに飛ぶか分かんないけど、太陽系の惑星には、水金地火木土天冥海 と、地球以外にも八つあるんだし、どこかの引力と釣り合いが取れるかも知れないじゃん?」
「惑星っておっきな星のことでしょ。それが地球以外にも、八つもあるの?」
「あるんだな、これが。まぁ冥王星 だけは、大きさが足りてないって理由で、準惑星へ格下げになっちまったんだけどね」
新たな単語が次々に出てきたことで、ミオが若干混乱している。少なくとも、地球から離脱した「はぐれ人工衛星」が、他の惑星の軌道を周回するかも知れない……という事だけは理解したようだ。
考え事をする時の癖なのか、縁側に腰掛けたミオが、その美脚をぷらぷらと動かしている。なにぶんにも、部屋着として選んだショートパンツの丈が短いゆえ、太ももが露わになって、何とも艶めかしい。
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