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63.初めて尽くしのお泊まりデート(2)
高速道路を下り、流れの緩やかな川に沿って、舗装 された山道を走ること十数分。
丁寧に示された案内板の通りに進んでいると、空まで立ち上りそうな煙が見え、やにわに香ばしい匂いが漂ってきた。どうやら俺たちは、すでに、今日からお泊まりする保養所、『柏丹荘 』の敷地内へと進入していたようだ。
「んんー? 何だかお肉の匂いがするよ、お兄ちゃん」
「そうだな。たぶん、他の泊まり客が、外でバーベキューでもやってるんじゃないか?」
「バーペキ……何それ? 聞いたことない、難しい言葉だよー」
いかん! またうっかり、ミオの苦手な横文字を使った事で、謎の造語が生まれそうになっている。
「えーとな、じゃあ今のなし。簡単に言うとさ、熱い鉄板の上で、いろんな食材を焼いて食べてるんだよ」
「ってことは焼きご飯?」
そう来たか! この問いの答えを間違うと、話がややこしくなるな。
ミオの言うまま「焼きご飯」だと認めてしまっては、今度は焼きおにぎりとか、焼き飯あたりと勘違いされかねない。鉄板焼とも微妙に異なるし、果たして、どう説明したものか。
「だいたい、その考え方で合ってるかな。外でご飯を食べるために、火で熱した網や鉄板で、肉とか野菜なんかを焼くわけよ。〝野外料理〟って考えれば分かりやすいかい?」
「あ! 野外料理なら分かるー! お兄ちゃんのパソコンで一緒に、お外で、きりたんぽ鍋を作る動画を見たもんね」
何とか伝わったようで安心したが、あの動画はそもそも、きりたんぽを切るところから始める異質なコンセプトだったんだよなぁ。
このお泊まりデートの間、もしも食べられる川魚が釣れたら、ミオもバーベ……野外料理に興味を示すのだろうか?
刺身などの生食は何かと危ないから、焼き加減はともかく、少なくとも「火を通す」という過程を避けて通る事はできないだろう。
「ねぇお兄ちゃん。ボクたちがお泊まりするコテージってどんなとこなの? 大きいテントみたいな感じ?」
「いや、それが、俺にも分からないんだ。ネットで調べても、ここの公式ホームページが見つからなくてさ。俺が知ってる、雑学の範囲で説明するなら――」
「うんうん。説明するなら?」
「一種の別荘ってところかな。例えば、あっちに建ってる木の家っぽいやつ。ああいう建物の大きさとかで名前が変わるらしいよ」
「そうなんだ。じゃあ、あの家っぽいやつがコテージなの?」
「あれは小さい方だから、多分、コテージというよりバンガローじゃないか?」
「ばんがろぉ……」
また聞いたことのない単語を耳にしたミオは、その場で立ち止まり、首を傾げて考え込み始めてしまった。そりゃあ、そういう反応になるよな。ただでさえ横文字が苦手なのに、肝心な名称からは、建造物の特徴や規模が連想できないんだから。
そんなミオのために、もう少し雑学で補足すると、泊まれる人数や各種設備は最低限だけど格安なキャンプ施設、それをバンガローだと呼ぶのが日本では一般的らしい。で、コテージはその反対。
「まぁまぁ。『百聞は一見にしかず』と言うし、先にお泊まりの手続きを済ませちゃおっか。コテージの中を確かめるのは、少し落ち着いてからでもいいだろ」
「うん! お部屋に着いたら一緒にお昼寝しようね!」
「ぬいぐるみのウサちゃんも?」
「ウサちゃんは、いつものベビーベッドだよー」
ミオと同じベッドで眠るようになって以来、ツインベッドの宿泊先では、空いた片方を、垂れ耳ウサちゃん専用のベビーベッドとして贅沢に使っている。きっと今回も、同じようにおやすみさせるつもりなのだろう。
ミオが自ら、抱っこして大阪まで連れてきたウサちゃんは、将来の結婚を約束した俺たちにとっては、我が子も同然のカワイイぬいぐるみなのである。
これはまったくの余談だが、盆休みを利用して、ミオと一緒に実家へ帰った際のお袋いわく、「ウサちゃんと子猫ちゃんと大型犬が、いっぺんに帰ってきた」と思ったらしい。
お袋は喜んでたから別にいいんだけど、俺、そんなに大型犬ぽく見えるのかなぁ。
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