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63.初めて尽くしのお泊まりデート(8)
「なぁ、ミオ」
「んー? なぁに?」
「ミオは、パズルの箱に描かれてる魚たちの名前も分かるのかい?」
この問いはあくまで、自分たちのセオリーに従い、端っこの方からピースを埋め続けている最中 に生まれた、ごくありふれた会話の一環である。
ふと、お魚大好きショタっ娘ちゃんは、どこまで海洋生物に詳しいのだろう? みたいな疑問……というより興味を抱いたがゆえの問いなのだが、ミオにとっては難しかったかもしれない。
「えーとね。最初に、この変なヒレがいっぱいあるのはミノカサゴでしょ。それから、岩に隠れてるのがウツボだよ。どっちも釣ったら危ないから、ボク、いっぱい勉強して覚えたの!」
ああ、なんて健気でカワイイ子猫ちゃんなんだ。
とても楽しそうに教えてくれる様子を見ていると、実に微笑 ましくてほっこりするんだが、ウツボは噛まれたら大ケガすると聞くし、ミノカサゴはそもそも毒持ちの魚だったよな。
決して「縁起でもない」とは言わないが、そこまで危険な海洋生物を、よりにもよって、青々とした美しい海中パズルのピースに採用するかね? という感想を抱いたのもまた、偽らざる事実である。
「――で、こっちの大きなサメがシュモクザメって名前なの。変わった形の頭だよね!」
「確かにな。シュモクザメは、ハンマーヘッドシャークって別名で呼ばれる事もあるし、すごく特徴的な見た目だと思うよ」
「あ! お兄ちゃん、また難しい英語使ったでしょ。どういう意味なのか教えてよー」
珍しく、横文字の苦手なミオが英語の学習に意欲を見せている。ハンマーヘッドシャークの意味と由来は、知ってしまえば腑 に落ちるのだが、きっと初めて聞く名前だから、難しい言葉のような印象を抱いてしまったんだろうな。
「実はさ、意味は見た目の通りなんだよ。シュモクザメの頭はハンマー、日本語でよく言うトンカチに似てるだろ?」
「うん。なんとなく」
「つまりハンマーヘッドシャーク、『トンカチみたいな頭のサメ』って意味で、見た目そのままの様を英語の名前、いわゆる英名で付けたわけだね」
「へぇー。じゃあ、シャークはどんな意味なの?」
「お、そこも気になったんだ。良い目の付けどころだね」
別に意図してハンマーヘッドシャークに引っ掛け、目の付けどころを褒めたわけではないのだが、雑学という視点に立った場合、ミオの中で新たに生まれた疑問とその源泉である知的探究心が、この子にとって役に立つ可能性は否定できない。
なぜならば単純に、「シャークとはサメという意味である」で納得して完結する人と、「なぜシャークがサメという意味になるの?」のように、さらに掘り下げて学びたがるミオのような子とでは、吸収した知識に差が出てくるからである。
その吸収した知識が人生において役に立つか否かを判断するのは、あくまでも個々人の価値観に委ねられる。だから学ぶも良し、学ばないもまた良し。
ただ、ウチのショタっ娘ちゃんはこんなにも知りたがり、学びたがっているのだ。であるなら八方手を尽くしてでも教えてあげるのが、ミオの彼氏、そして里親でもある俺の務めというものではないか。
「平たく言うとシャークはサメって意味なんだけど、そう呼ばれる理由には色んな説があるよ。例えば、大昔に使っていた呼び名が、他の国では違うように呼ばれた事の影響とかね」
「大昔?」
「そう。だいたい五百年くらい昔かな」
「ごひゃく……?」
あまり五百年という数字にピンと来ないのか、ミオは首を傾げ、ピースを埋めながら聞き返す。
「うん。そのくらい昔には、サメの事を英語でシードッグ、日本語に直すと『海の犬』って呼ぶ習慣があったんだってさ」
「ふーん。海なのに犬に喩 えちゃったんだ。変なのぉ」
「はは。確かに、今なぞらえると変かもだな。ただ昔は、サメが群れを作って獲物に襲いかかる様子を犬に見立ててたのさ。だからシードッグって名をつけたわけだね」
他にも部分的に似ている見た目の事やら、食に貪欲なところやらが共通している等々の理由もあるにはあるのだが、こと現代の日本において、その感覚は共有しがたい。
今では猟犬という概念とて限定的だし、犬と人間の付き合いをサメに形容するには、あまりにも時代が変わりすぎてしまった。
「……で、英語で喋らない国の人が、サメを見て呼んだ時の名前からもじって、シャークという名前をつける事にした。これが一つの説ね」
「じゃあ今はシードッグじゃないの?」
「色んな影響があってシャークが広まったから、少なくとも、シー何とかに例えたサメの名付け方は減っただろうな」
「なるほどー。でも、なんかさ? 牡蠣 のことだって『海のミルク』って呼んだりするでしょ。海の生き物って、名前のつけかたが変じゃない?」
「ん? んー。まぁ確かにね……」
いつの間にか英名の話から興味が離れてしまったようだが、言われてみると、何かしらの違和感はある。そう例えるに至った背景がどうであれ、ミオのように、違う視点でモノを見た人から出る異論や疑問は新たな気づきを得られるから、俺にとっても有意義なのだ。
惚気 るわけじゃないけど、あらためて、彼女がミオで良かったなぁ。美脚だし。
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