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はっぴーきんぐだむ1
気がつくと、三鈴は歩いていた。屋外で、左側は家の囲いのコンクリート塀が続いていて、右側は車道だ。
ふと、立ち止まる。
……どこへ行こうとしているんだっけ?
そして、ここは、どこだ?
三鈴は突如足元がぐらつくような不安に襲われた。自分が夢遊病で、眠ったまま外に出てきたような感覚がした。しかし、今は昼間だ服も、いつもの洋服を着ている。
「って、いやいや、普通に帰るとこだった」
どこに? もちろん、自宅に。三鈴は再び歩き出した。
自宅に着き、玄関で靴を脱いでいるとぬっと人が現れた。
「おや、おかえりなさい」
「誰だ!」
三鈴はこっけいなほど驚いた。ここは三鈴の自宅だが、こんな男は知らない。
和服を身に着けた背の高い二十代後半くらいの男。
「おかえり、と言ったが、ふむ、あなたがここに来るのははじめてでしたね。でも、接木から話は聞いていますね?」
男は言ったが、三鈴は答えなかった。
「いやなにも」
「まじで?」
男はあごに手をあてて考えた。
「接木は引き継ぎをしなかったのかな……いや、あなたも接木ですね」
「俺は接木……じゃない。いや、接木だったけど、接木じゃなくなった。今はもともとの名字の三鈴……」
言いながら、三鈴はおかしいな、と思った。
母が接木の父と再婚し、連れ子の三鈴も一時は名字が接木になった。その後、結局義父と母は離婚したため、三鈴はまた三鈴に戻った。
しかし、ここは接木の家だ。
どうしてここを自宅だと思ったのだろう。この家から出たのは何年も前のことだというのに。
ということは、帰ってきた自分のほうが間違いだった、ということになる。
しかしどちらにせよ、接木の家にこんな男はいなかった。
「そのとおり。ここは現実の接木の家ではない。君は今現実では寝ていて、ここは夢の中。ここまではいいかい?」
「そうなんだ」
「そこからかー」
男は眉をしかめた。
「まあ、そこからもなにも、導入にこれ以上の説明はないんだけど。ここは夢の中。通称ハッピーキングダム。僕のことは『優男』と呼んでくれ」
「何もかもうさんくさいな?」
「逆に『夢っぽさ』を出してみたつもりなんだけど……」
優男は、まあ立ち話も何だし、と言って家に上がるように促した。ここは、使用人たちが出入りしていた第二玄関。正面玄関は、三鈴は使うことを許されなかった。接木の子でないから。家には他の人間の気配はしなかった。
優男は、正面玄関の隣の客用の待合室に入り、二人はソファに向かい合って座った。
「じゃあ、きみが、今どうしてここにいるか、から説明したほうがいいね」
「いえ、それは、わかっています。思い出しました。俺はここに、『復活の薬草』を取りに来ました」
「おお、それがわかっているならもう何も問題ない」
「……いや、でも、それ以外のことは何もわかっていない。義兄は、いつも眠って、夢の世界から『復活の薬草』を摘んで戻ってきていた、らしい。俺も同じことをする必要があるのだけれど、夢の中のものをどうやって現実に持っていけたんだろう?」
三鈴はしかし、期待に満ちた目で優男を見た。
「俺は『復活の薬草』がどういうものなのかもわからない。どこで取れるのかも。でもそれはあんたが教えてくれるんだろう?」
「え? なんで?」
「なんでって……、いや、たしかに、なんでだろう。でもあなた、いかにも夢の中のナビゲーターっぽいから」
優男は苦笑いをした。
「確かに! 確かにそうだけど、僕はきみのナビゲーターではなく、この場所に住んでいるだけなんだ。『復活の薬草』が何で、どこにあるのかは僕も知らない。けどヒントはある」
「じゃあそれを教えてくれないか」
「構わないけど、急いでるの? 誰かが死にそうとか?」
「いや、今日はテスト睡眠みたいなものなんだ。俺がちゃんと薬草を取ってこれるか。……でも、ここまでこれたのだから、第一関門はクリアなのかな」
三鈴はじっと優男を見た。優男は
「僕は詳しくないけれど、ここに来た君の義兄は、いつもあそこに入っていったよ」
とパチンコ屋みたいなことを言った。
優男が指したのは、家を出て、庭にある小屋だった。
三鈴の記憶では、庭にあんな小屋はなかった。小屋というよりは、壁は透明で、ビニールハウスのようだった。
優男は穏やかに三鈴を見ている。
「チュートリアルとしては行くべきなんだろうな」
「人をチュートリアルのお兄さん扱いしないでほしいが」
三鈴が立ち上がると、優男も一緒に立ち上がって着いてきた。
ビニールハウスは、広々とした屋敷の庭にあるには不釣り合いに見えた。
「何かいるんですか?」
「僕は入ったことないんだ」
「なんだ。じゃあ着いてこないんですか?」
「うん、ここから先は、きみ一人で」
三鈴は扉を開けた。
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