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第3章 一年次・6月(2)
その後、茂と佳代の仲は順調のようだった。
茂と一緒にいることが多い高志も、必然的に佳代と話す機会が増えたが、佳代は周りの人間に気を遣わせることもなく、茂とも他の人間とも楽しそうに喋っていたし、茂も佳代に対してだいぶ気を許しているように見えた。率直に言って佳代は取っつきやすく、飾り気のない話しやすい人間だった。
「知ってた? 佳代ちゃんさー、実は結構な毒舌キャラでさ」
茂との会話でも、彼女の話題がよく出るようになった。
「でも、何か言った後に『あっ』て顔で口押さえたりしてんの。まじうける」
「でも大槻さんとか、前から伊崎さんのこと毒舌って言ってたよな」
「え、そう? 俺、今までそんなイメージなかったから何か面白くてさ」
「お前の前では我慢してたんじゃないか。俺も全然聞いたことないし」
「かなあ。最近は段々と漏れてきててさ、それを隠そうとするからめっちゃ笑えるんだよなあ。隠さなくていいって言ったんだけど」
「そこは『そんなところも好きだよ』とか」
「言わないっつの」
食い気味に否定が返ってくる。茂は会話がこういう方向に向かうと照れたり口ごもったりすることが多い。あまり得意ではないのだろう。
そういえばもうお試し期間は終わったのだろうか、とふと思う。彼女に対する気持ちに変化はあったのだろうか。そのことについて茂は特に何も言わないが、二人の様子を見る限り、多分ちゃんと付き合う方向に進んでいるのだろうと高志は思った。
「あ、そういえば藤代さ、あれどうする? キングダム」
思い出したように茂が言った。
高志は普段あまり漫画を読まない。一方で茂は漫画とかゲームとかその辺りが好きらしく、イベントサークルとは名ばかりのインドアなサークルにも所属していた。共通の趣味を持つ人間がたくさんいて楽しそうだ。
そのことは前から聞いていたので、ある時、テレビで紹介されていた漫画に興味を持った高志は、茂に知っているかどうか聞いてみた。すると何故か茂の方が興奮し、物凄く面白いので絶対に読んだ方がいいと熱く言われた末、全巻揃えている茂に貸してもらうことになった。
「ちょっとずつ持って来ようか? あーでも途中で止まらんなあれは」
「ていうか、もうすぐ試験だろ」
「ああ、だよなあ」
茂のテンションが若干下がるが、すぐにまた明るい表情に戻って言った。
「あ、そんじゃさ、まとめて貸すから夏休みに一気読みするか?」
「でも、休みの間中ずっと借りてて大丈夫か」
「全然大丈夫! ていうかむしろ読め」
妙に使命感すら漂わせている茂にそう言われ、高志は笑いながら頷いた。
「じゃあ借りるわ」
「おう。んじゃ、試験が終わる頃に持ってくるな」
「いや、俺が取りに行く。お前さえ良ければ」
高志は電車で三十分ほどの距離にある実家から通っているが、茂は地方から出てきており、大学近くで部屋を借りている。大学に持ってきてもらって一日中持ち歩くより、帰りに取りに寄った方がいいだろう。
「いいよ。あ、そんじゃ試験最終日にしてさ、ついでに晩飯食おうぜ」
これまで二人は、懇親会などを除けば一緒に遊んだことがなかった。高志が授業後には毎日柔道部に行くからだが、茂もサークルやアルバイトに時間を遣っているようだった。
いい機会だと思った高志も賛成し、試験最終日に茂の部屋に遊びに行く約束をした。
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