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第3章 一年次・6月(3)

 どうにか前期試験を終えた日、二人はそのまま茂の部屋に行った。夕食時にはまだ早く、また食べに出るのも面倒だったので、スーパーで食料や飲み物を購入しておいた。  茂の部屋はかなり古かったが、思っていたより広く、二間あった。入ってすぐにキッチンとユニットバスがあり、それからテレビや座卓が置かれている和室、更に襖で隔てられた奥を寝室にしているようだった。「向こうは見せられない」と寝室の方を指して茂は笑い、それから居間に置かれていた大きな袋を高志に示した。予め入れておいてくれたらしい。 「これな。キングダム」 「ああ、サンキュ」  食料はいったん冷蔵庫に入れ、飲み物だけ出して、座卓のそばに座って寛ぐ。 「藤代はゲームもやらないのか?」  茂の部屋のテレビ台には、ゲームらしきものがたくさん収納されていた。 「子供の頃はやったことある」 「だよなー」 「別に、たまたまやらないだけで、嫌いとかじゃない」  茂は、高志のことを『典型的なリア充』だとよく言う。今もそんなニュアンスを感じたので、高志はそう返答した。 ――藤代はすごいな。 ――俺はオタクだからな。  そういうことを今まで何回か茂に言われたことがあった。でもそれは単に趣味が異なるというだけで、特に高志がすごい訳ではない。だから高志はそう言われる度にいつも否定していたのだが、それすら茂は単なる謙遜と取っているようだった。  茂の社交性を見て、初めのうちは自分に自信があるのだろうと思っていたが、実際のところ、茂には変に自分に自信がないところがあった。高志から見れば茂のようなコミュニケーション能力を持っている方がずっとすごいし、人間関係においては茂の方がよっぽど充実しているのだから、それが本当の『リア充』なんじゃないかとも思う。自分は、何とか関係を築くことができた少数の人間と狭い範囲でそれなりの交流をしているだけだ。  などとよく考えるのだが、結局のところ、お互いに自分にはない相手の美点に目が行っているのかもしれなかった。 「そこにあるやつで面白いの何かないのか」 「え? どれかやってみる?」  テレビ台を指さすと、茂が嬉しそうに高志に聞き返してくる。確か、高志がキングダムの話をした時もこういう表情をしていた。 「俺にもできるやつな」 「何系がいい?」  そうやって様々な種類のゲームを説明されたが、高志にはよく分からなかったので、最終的に茂のセレクトに任せることにし、夕食後にやってみることになった。 「えっ? 藤代って飲まなかったっけ」 「ていうかお前こそ、冷蔵庫にビールって相当だな」  その後、空腹を覚えた頃に夕食にすることにし、買ってきた食料を温めて座卓に並べたところ、冷蔵庫から缶ビールを出してきた茂に高志は驚いた。スーパーでは買わなかったから、茂の自前のものだ。 「欲しかったんなら買い出しの時に言えよ」 「違う違う、これはサークルのやつらが来た時の残り」  さすがに普段から一人で飲まないって、と茂は笑う。 「藤代は飲むかなって勝手に思ってた。どうする? やめとく?」  そう言いながらも、自分は飲むらしく、茂はプルトップを開けた。それを見て、高志も一度飲んでみる気になった。 「一本貰う」 「おう」  ぷしゅっと開け、茂と缶をぶつける。初めて飲んだビールは、当たり前だが苦かった。だが表情には出なかったらしく、茂に「いけるなあ」と変に感心された。  それから並べた惣菜類を各々好きに取り分けて食べた。

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