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第3章 一年次・9月(2)
その日、コンビニで自分の夕食と差入れ用の菓子類を買って茂の部屋に向かうと、そこでは既に白熱したぷよぷよ対決が繰り広げられていた。
「みんな、藤代が来た!」
玄関で出迎えてくれた茂に続いて居間に入ると、そこには三人の男がいた。
「お疲れっす」
対戦の様子を見ながら待機していた眼鏡の男が手を挙げて高志に挨拶する。高志も会釈で応えた。
「これが伊藤。そっちで対戦してるのが水谷と山田な」
「おーす」
「どもー」
今まさに対戦中の二人も、画面から目を離さずに口々に藤代に声を掛ける。前髪の長めなのが水谷、小太りな方が山田らしい。高志はコンビニ袋の一つを茂に渡し、弁当の入った方を持って座った。
「藤代が飯食ったら交代なー」
茂も座りながら二人に声を掛けた。高志の前に紙コップを置いてくれる。高志はお礼を言って、床に置かれていたペットボトルのお茶を入れた。
「リア充でイケメンの藤代くんかー」
伊藤が高志を見ながら話し掛けるともなく話す。
「え? いや」
そんな風に話しているのか、と茂を見るが、茂は伊藤の方を見ながら「だろ?」と言い、高志の買ってきたお菓子を開けて食べている。
「俺らオタクの集まりだけどごめんな」
などと、いつも茂が言うのと同じようなことを伊藤も言う。何と答えていいか分からず、「いや、全然」などと返しながら、高志は弁当を食べ始めた。しばらく黙々と食べる。
茂と伊藤がゲームか何かの話を始めたのを聞きながら、そう言えばこういう時に自分は初対面の相手と会話することが著しく下手だった、と高志は思い出した。茂は相変わらず楽しそうに話しているが、共通の趣味を持つ彼らとは、特に気遣いもせず本当に楽しんでいるのだろう。
何気なく画面に目をやると、水谷が苦戦しており、山田の方が優勢らしかった。適当に落としているように見えるのに連鎖が続く。つい見入ってしまう。
「藤代くん、まじでぷよぷよはまってるね」
伊藤に話し掛けられ、振り向く。さりげなく気を遣ってくれているのかもしれない。
「いや、上手いなと思って」
と言うと、「こいつらみんな上手い」と伊藤も頷く。
「そんなことより、オタクの細谷くんに彼女ができたのはひとえに藤代くんのアドバイスのおかげって聞いたけど、それ俺にも教えてよ」
「え……別に、単に話聞いただけで、特に何も言ってない」
既に告白された後に、とりあえず付き合ってみればと言っただけだ。アドバイスと言えるものは何もない。
「オタクにもできるモテの秘訣とかない?」
「……俺も別にモテないし」
気を遣って話し掛けてくれているのはありがたいが、返事に困る質問ばかりだ。今一つ話が弾まず申し訳なく思っていると、茂が「藤代はもう彼女いるからモテる必要ないんだよな」と話に入ってくる。
「そうかー、リア充のリア充たる所以……」
伊藤がわざとらしく落ち込んだふりで項垂れる。そういう役割演技的なノリがあるのだろうけど、リア充とかオタクとか言われて線引きされると、少し反応に困る。
と、そこでついに水谷が詰んでしまい、ゲームが終わった。弁当を食べ終わっていた高志は、促されてテレビの前に座った。対戦相手は伊藤ということらしい。
「俺、下手なんで、ごめん」
「いやいや」
「藤代は下手じゃないよ。割とやる」
そう言いながら、茂が高志の横に来て座った。
プレイしながら、茂がわざわざ自分の横に来て見ているのは、もしかしてアウェイな立場の自分への気遣いだろうかと高志は頭の片隅で考えた。もしそうなら、こういう配慮をさりげなくできるのは流石だと思う。違うのかもしれないけど。
伊藤とは思ったよりもいい勝負ができた。その後も、遅れてきた分優先してプレイさせてもらえたので、高志はずっとコントローラーを持ったまま、残るメンバーが代わる代わる対戦相手となった。やってみるとやはり山田が一番手強く感じた。こちらがせっかく連鎖の準備をしていても、いつも抜群のタイミングで邪魔されてしまうのだった。
ひととおり全員と対戦し終えたところで、いったんコントローラーを明け渡し、その間にシャワーを借りた。その後はお茶を飲みながら他のメンバーの対戦を見たり、待機組と話したりしていたが、いつの間にか寝落ちしてしまっていたようだった。
目が覚めると、暗闇と静寂があった。スマホを見ると午前4時前だった。三人は帰ったらしく他には誰もおらず、体にバスタオルのようなものが掛けられている。茂は奥の寝室で寝ているようだった。高志もすぐにまた眠りに落ちた。
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