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第18章 三年次・7月(2)

 その咲から花火大会に誘われたのは、その約二週間後だった。 「私、ここに引っ越してきたばかりから、行ったことないんだ。藤代くん連れていって」  あの後まだ数回しか一緒に働いておらず、高志にとって咲はまだ他人も同然だったが、一度彼女がいるかどうか聞かれた時に今はいないと答えてしまっており、しかも運悪く花火大会当日はシフトが夕方までだった。咲は馴れ馴れしいうえに押しが強く、高志は上手く断ることができずに、結局一緒に行くことになってしまった。  去年までは高志も茂も彼女と一緒に花火大会に行っていたが、今年はお互いに行くことはないなと休み前に茂と話したところだった。現に茂は今年はもう帰省している。自分も行かないつもりだったのに、と高志は少し憂鬱になった。  当日、待ち合わせの場所に行くと、咲が浴衣を着て待っていた。そこから会場に向かう道中、例年どおりのひどい人混みの中で、周りに押されたふりをしながら咲が腕を組んできた。高志の腕に胸の柔らかい感触があたる。おそらくわざとだろう。ある意味すごいな、と高志は冷静に感心した。  花火は綺麗だったが、去年のような気分の盛り上がりもなく、高志は何となく時間を持て余した。ちょうど数日前、茂に『結局バイト先の人と行くことになった』とラインで愚痴ったところだったので、高志は暇つぶしに花火の動画を撮って茂に送ってみた。すぐに返信が来た。  花火大会が終わった後、人の流れに乗りながら高志と咲も駅へと向かって歩いていたが、咲は当然のように再び腕を組んできた。やめてください、と言うのもおかしい気がして、高志はされるがままになっていた。咲はよく喋ったため、聞いているだけでよいという点では楽だった。高志の硬い口調が気になったのか、敬語はいらないと咲に言われたが、自分は年下なのでと高志が固辞すると、咲は不満そうな顔をしていた。  その後も咲とはバイト先でしばしば顔を合わせた。その度に咲は馴れ馴れしい態度を隠さずに高志に絡んできた。高志はいつもどおりの口調で対応していたし、それ以上どうなるものでもないと思っていたが、徐々に周りのスタッフや社員からも冷やかされるようになり、高志はその都度、何もないと否定した。不愉快とまではいかないが特に嬉しくもなかった。ただ、男としての自尊心が少し満たされたのも事実だった。  咲がバツイチだということもその時に他のスタッフから聞いた。離婚してとりあえずこの店で働き始めたらしいとのことだった。気を付けろよ、とからかい半分で注意されたが、高志には学生の自分に関係があるとは思えなかった。  そのうち、終了時間が重なった日にはバイト後に咲にカフェなどに誘われるようになった。奢るからと引っ張っていかれ、断り切れない日には一緒にコーヒーを飲みながら咲の話を一方的に聞かされた。そして知らない間に名前で呼ばれるようになっていた。咲のその強引さに、高志はまた感心した。自分だったら相手から嫌がられるのが怖くてここまでできないだろうと思った。

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