64 / 149
第21章 三年次・12月(1)
次の日、高志が茂の部屋に行くと、座卓の上にはカセットコンロと土鍋が置かれていた。
「鍋?」
「そう。たまにはいいだろ。すぐ食べる?」
「うん」
土鍋には既に乳白色の出汁が入っており、茂がカセットコンロの火をつける。
「土鍋とか持ってたんだな」
「うん。先輩に貰った」
「何鍋?」
「ごま豆乳鍋ってやつ。この前食ったら美味かった」
「へえ」
茂が食材を入れていく。野菜類は予め切ってくれている。無頓着な放り込み方がいかにも適当で、高志は少し笑った。ある程度入れたところで茂が蓋をする。
高志はコンビニ袋からビールを二本取り出して置き、残りを冷蔵庫に入れるためにキッチンに行った。シンク横に皿や箸が置かれていたので、居間に運ぶ。
「お前もビール?」
「何となく」
高志は腰を下ろしながらそう答えると、早速一本を手に取って開けた。あまり美味しいとは思わないが、社会人になるまでに少し慣れておこうと思っていた。
「今って色んな味の鍋の素があるよな」
茂が、自分もビールを開けながら話し出す。
「そうなのか?」
「うん。何か色々売られてた。ありすぎて分からんから食べたことあるのにした」
「へえ。うちでは水炊きとすき焼きしか出たことないな」
「藤代のお母さんは市販の素とか使わないだろ、多分」
「水炊きは、あれ単にお湯だしな」
「えー、出汁くらい取ってるんじゃないか?」
「そうなのか。でも結局ポン酢があればそれでOKじゃね?」
「まあね」
ビールを飲みながら喋っていると鍋が煮立ったので、火力を弱めて蓋を開ける。湯気が広がり、ぐつぐつと音を立てながら揺れる具材が現れた。
「藤代がうち来るの、何か久し振りだな」
食べていると、ふと茂が言い出す。まるでたまたまそうなったかのような口振りだった。高志は黙ったまま頷く。
「そう言えば、今日泊まる?」
「え? いや」
そんな話はしていなかったので、今日は何も持って来ていない。茂は少し高志を見つめた後、何も言わずにまた食べ始めた。
ともだちにシェアしよう!