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第21章 三年次・12月(2)

 一通り食べた後、また新たな具材を投入してしばらく煮込む。それを何回か繰り返し、ある程度腹も満たされた頃、肉類は食べ終えたが、野菜が大量に残っていた。 「多いな」 「はは、ごめん。量がよく分からなかった。いいよ置いとけば」  茂は既に食べるペースが落ちている。高志は今鍋に入っている分だけ食べ切ることにし、自分の皿に取った。茂が火を消す。だいぶ量の減った出汁が鍋の底に残っている。 「……今日、何時に帰る?」  高志が食べていると、茂が聞いてきた。今や完全に箸を置いた茂は、ビールを少しずつ飲んでいる。 「え? 別に何時でもいいけど。まあ適当に」 「そう」 「何?」  高志が食べながら聞くと、茂は首を振った。 「……お前、昨日何か怒ってた?」  少しの間を置いてから切り出した茂に、高志は箸を止める。茂の顔を見ると、茂もじっと高志を見ていた。軽く溜息をついて、再び食べ始める。 「まあ、そう見えたのかもしれないけど」  高志は最後の一口を食べると、箸を置いた。ビールを一口飲む。おそらくこれが茂の本題で、高志にとってもそうだった。 「俺なのか。お前じゃなくて」 「え?」 「俺が何かを怒ってた訳じゃない」  茂が眉をひそめてこちらの様子を窺っているのを見ながら、高志は静かに話し出した。 「俺、しばらくお前の真似をしてみた。でも難しかった。やっぱりお前はすごいなと思った」 「え……何? 真似?」 「だから、それがお前のやり方なら俺がどうこう言う話じゃない。それがお前のいいところでもあるだろ。本音を言えなんて他人が強制するものでもないし。ただ、いざ自分が当事者になると、笑顔で隠されたらこっちはどうしようもなくて困った」 「……何を言ってるんだよ」 「それは、しらを切ってるのか、本当に分からないのか、どっちなんだ」  高志が真正面から茂を見て静かにそう言うと、茂は絶句する。 「……本当に分からない」  茂の答えを聞いて、高志は一つ頷くと、目を逸らす。 「そうか」 「何? しらを切るって……?」 「お前さっき、俺がここに来るの久し振りだって言ってたけど」  目を逸らしたまま、高志は淡々と言った。 「お前が呼びたくなかっただけじゃないのか、って話」 「え……? 何? 違う」  茂は首を横に振る。 「違うんだな。じゃあいい。俺の勘違いだった」 「藤代、違う」 「分かったよ」 「違うって!」  茂の必死の声音に、高志は顔を上げた。 「伊藤達のことなら、前に鍋しに来た。もしそのことを言ってるのなら、お前を呼ばなかったのかあいつらにも聞かれたけど、鍋なんて途中から来て残り物食っても美味くないだろ。だから、それだけで」 「それだけなんだな」 「……」  どうして自分は茂にこんな顔をさせているのだろう、と高志は思った。本当は大抵笑っているやつなのに。少し前にもあった。確か高志が茂を怒らせた後、ここに謝りに来た日―― 「そう言えば、お前あの時『どうすればいいか分からない』って言ってたけど、あれって何のことだった?」  ふと思い出して、高志は言った。あの時も、話し合いが消化不良のような、何か忘れているような気がしていた。 

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