66 / 149
第21章 三年次・12月(3)
「今話してることと関係あるのか?」
何のことだ、とは茂は聞かなかった。
「どうすればいいのか分からないって、俺のこと? 何か別のこと?」
「……」
「言いたくない?」
しばらく答えを待ったが、茂は口を開く様子はなかった。
俯いて口を閉ざす茂の表情を見て、本人が言いたくないと思っていることを言わせるのは自分の我儘ではないかと高志は思った。たとえ自分にとってはそれが話し合いに必要不可欠でも、言いたくないことを無理強いできる理由にはならない。だから、話し合いもここで終わらざるを得ない。
「……分かった。いいよ。ごめん」
そう言って、高志はゆっくりと立ち上がった。
「片付けたら、帰るよ」
高志が土鍋を持ち上げた時、茂が小さな声で言った。
「……言いたくないんじゃない。どうしたらいいか分からないだけ」
「何を?」
「言ったら、藤代が嫌な思いをするかもしれないから。多分。……絶対」
「聞いて嫌な思いをするのと、聞かずにこのままの状態が続くのと、どっちが最悪なんだ」
「……分からない」
茂は俯いたまま弱々しく首を振った。
「俺も分からないから、お前が決めろよ。どっちでもいいから」
そう言うと、高志はひとまず鍋をシンクに運んだ。居間に戻って残りの食器も回収し、中身を捨ててスポンジで洗う。カセットコンロや野菜の残りもキッチンに運び、ごみを捨ててから居間に戻った。
「……もし、お前が今日泊まるなら」
高志が再び座卓の前に座ると、茂が小さな声で言った。
「今日帰らないなら……話す」
「分かった。泊まる」
高志がそう答えると、茂は急に顔を上げて、首を振った。
「嘘。やっぱりいい。無理しなくていいから」
「え? 別にいいよ。泊まればいいんだろ」
何か言いたげな茂に、高志は手を出した。
「細谷、鍵貸して」
「え?」
「コンビニ行ってくる。何も持って来てないから」
「……本当に泊まるのか?」
「何だよ。今更だろ」
今までだって何度も泊まったのに、今日に限って駄目な理由が分からない。とりあえず鍵を借りた高志は、上着を着て玄関に向かった。
「何かいる?」
振り向いて聞いたが、茂が首を振るので、高志は靴を履いた。
「お前、今日は先に風呂入っとけよ」
そう言い置いて外に出ると、高志は近くのコンビニに向かって歩き出した。
ともだちにシェアしよう!