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第21章 三年次・12月(4)

 コンビニから戻ると、バスルームから水音がしていた。高志は靴を脱ぎ、冷蔵庫から缶チューハイを一本取り出して居間に戻った。  飲みながらしばらく待っていると、茂がバスルームから出てきた。高志に気付く。 「悪い。タオルと、何か着替え借りてもいいか。下だけでいい」 「うん」  茂は寝室に入ると、タオルとスウェットを持って出てきた。 「俺のだと小さいかもしれないけど」 「とりあえず借りる。サンキュ」  受け取ると、高志はバスルームに向かった。いつものように全身を洗い、買った歯ブラシで歯を磨く。シャワーを止め、体を拭いて、ひとまず下だけ履いた。借りたスウェットは少し丈が短く感じたが、一応入った。 「履けた」  バスルームを出て茂にそう言うと、茂は曖昧に笑って頷いた。  ビールを飲んでいる茂の斜め前に座ると、高志もさっき開けたチューハイを飲む。肌の湿気がある程度取れたところで、自分のアンダーシャツを着た。 「お前、ビールって美味いと思うの」  いつものように少しずつビールを飲んでいる茂を見て、高志は聞いてみる。 「美味いっていうか、慣れたって感じ」 「ふうん」 「……藤代、最近どう」 「え? どうって何が」 「彼女とかできた?」 「だからできないって」  高志は答えながら、前も同じ会話をしたことを思い出した。 「もしかしてまたキスしたいのか?」 「……お前は何で俺とキスするの」 「え? お前がしてくるからだろ」 「嫌じゃないの」 「……それ、前もしつこく聞いてきたし」  もう答えた、と高志がぶっきらぼうに言うと、茂は黙って頷く。 「本当は、最近はお前をあんまりここに呼ばないようにしてた。……ごめん」  茂が、ぽつりと打ち明ける。高志は静かに理由を問うた。 「何で」 「……キスしたくなるから」 「え?」  予想外の答えだった。 「それ、今更過ぎないか。今まで散々してただろ」 「……」 「お前がさっき言ってた、俺が嫌な思いするって、まさかそれか」  高志は若干呆れた口調で聞いたが、茂は首を横に振った。 「違う。……今から言う」  茂は座卓に手をついて立ち上がった。 「言うけど、やっぱり泊まらなくていい。いつでも帰っていいから」  そう言いながら居間の入り口に歩み寄り、茂は部屋の電気を消した。 「そんで次に会った時も、もう俺のこと無視していい。友達をやめていい」 「……何言って……」  窓の外からの光で、暗闇でも茂のシルエットは見えた。その影は高志のそばまで歩いてくると、そのまま膝をついた。表情は見えない。 「――」  キスされるのかと思ったが、近付いてきた茂の顔は高志の肩口へと逸れた。 「……藤代」 「……何」  茂の両腕が高志の首に回る。茂の頬が高志の頬に触れる。キスとは違う初めての接触に、高志は硬直した。茂の体から、細かい震えが伝わってくる。 「……お前、震えてないか」  高志が気付いてそう言うと、茂の腕に力がこもった。 「ごめん」 「じゃなくて」 「藤代、ごめん」  茂の声を聞いて、それが震えではなく押し殺された嗚咽であることに高志は気付いた。 「……細谷」 「藤代……俺とセックスして」  茂は声にならない声でそう言った。

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