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第25章 四年次・9月(3)

 それからも相変わらず毎週顔を合わせたが、その日以降、茂がそれほど落ち込んでいる様子を見せることはなかった。高志は注意深く茂の様子を見るようにしたが、茂が本当に何を考えているのかは分かりようがなかった。ただ、茂が口にする話題は就活に関するものが減って、卒論に関するものが増えてきた。  敢えて就活の話題を避けているのか、試験結果が出るまでは卒論を優先することにしたのかは分からなかったが、茂が避ける以上は高志もそこには触れないように心掛けた。もし就活でまた気が滅入ることがあったとしても、それを他人に対して無制限に垂れ流す茂ではなかったし、何かあっても自分で対処しているのだろうと思った。  そうするうちに、すぐに12月になった。  茂の卒論はもう相当進んでいるらしく、最近では教授棟にもよく出入りしているらしかった。時間的な余裕は自分の方があるはずなのに、その明らかな進捗度の違いに、高志は焦りを覚えるよりむしろ素直に茂に対する尊敬の念を覚えた。 「家が近いから、ちょっと質問ある時とかもすぐに聞きに行けるのは有利かな」  茂はそう言って笑っていたが、その自主性や能動性を持っている学生がどれほどいるのかという点を、口に出さずに高志は考える。自分にはその姿勢が足りていないと思った。

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