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第6章 9月-自覚(4)

 ふと目を覚ますと、停止した車の中だった。  知らない間に眠ってしまっていたらしい。外は暗く、運転席に茂の姿はなかった。空調を維持するため、エンジンはかかったままになっている。  エンジンを切ってから外に出ると、そこは見覚えのあるサービスエリアだった。おそらく淡路SAだろう。ちょうど目の前にトイレの入口がある。探すまでもなく、その横のベンチに座ってスマホを触っている茂がいた。近付く高志の足音に気付いて、顔を上げる。  そして、見慣れたきれいな笑顔を高志に向けてきた。 「なあ。よく考えたらさ、こっちって明石大橋と反対側の車線だよな」  今度は俺がコーヒー買ってやろうと思ったのに、と言って茂が笑う。 「――」  もう何度も味わった情動がまた湧き上がる。自分の中に確かに存在する、茂に対する恋情。愛しさ。数時間前までは必死に押し殺すしかなかったそれを、しかし高志はその時、何故か素直に受け止めることができた。  高志は自然と微笑んでいた。  そして、このサービスエリアはこちら側から明石大橋の見える側に移動することができると茂に伝えた。  淡路島から再び明石大橋を渡って地元まで戻ってきた後、茂とは高志の家の最寄駅で別れた。  駅前のロータリーに一時停車し、運転席から降りた茂が、じゃあな、と手を振って駅に入っていく。それを見送った高志は、茂の降りた運転席に乗り込み、実家に向かった。  帰宅すると、ちょうど家族が全員リビングに集まっていた。 「おかえり。遅かったね」 「うん」 「ご飯は?」 「食ってきた」  テレビを観ていた父親にETCカードを返してから、高志はテーブルの上に買ってきたお土産を置いた。父親への地酒は半分は茂が負担したことも伝える。それから家用の讃岐うどんを取り出すと、案の定、妹が不平の声を上げた。 「うどん以外でって言ったのに」 「だから、細谷がお前にって、これ」  道の駅で高志がうどんを買うのを見て、茂が笑いながら代わりに買ってくれたお菓子の箱を差し出すと、妹は「え」と少し驚きながら受け取る。 「……イケメンからお土産もらっちゃった」  それを見ていた母親が父親に話し掛ける。 「ほらほら、ね、ちゃんとしてる子でね。昨日のロールケーキも持って来てくれたのよ、お礼にって」 「そうか。かえって気を遣わせたかな」 「あいつってイケメン?」  高志がそう聞くと、何故か全員からの注目を受ける。 「え、普通にイケメンでしょ。優しそうだし、モテるんじゃない?」 「モテそうよねえ。好青年って感じで」  妹と母親が立て続けにそう言う。 「……ああ、モテてた」  高志はそう答え、そのまま立ち上がった。それを見て母親が声を上げる。 「あら、もう帰るの?」 「うん。もう遅いし」 「ちょっと、それならすぐにおかず詰めるから。持って帰りなさい」  母親が慌ててキッチンの方に行く。きっと予め多く作っておいてくれたのだろう。  そうして渡されたたくさんのタッパーと共に、高志はマンションへと戻った。

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