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第10章 12月-二人(3)

 部屋に戻ると、高志と茂はそれぞれ上着を脱ぎ、持っていた袋をローテーブルの上に置いた。何となくそのまま床に腰を下ろす。  しばらく無言で座っていたが、やがて茂が口を開いた。 「俺、もう一回風呂入っていい?」 「うん」  茂の姿がバスルームに消える。  そのままじっと座って待っているうち、妙な羞恥心が湧いてきたので、高志はとりあえず買ってきた食料を冷蔵庫に入れた。そしてドラッグストアの袋からジェルを取り出した。いったんテーブルの上に置いたが、再び手に取るとベッドの方に行って腰かける。何となく手の中で転がしながら、茂が出てくるのを待った。  茂が出てくると、高志はジェルをヘッドボードの上に置き、「俺もシャワー浴びてくる」と言った。バスルームで昨夜洗ったばかりの体をもう一度洗う。シャワーで洗い流してから脱衣所に出ると、茂が使ったらしいタオルがきちんと畳まれて洗濯機の上に置かれているのが目に入った。  部屋に戻ると、高志と同じようにベッドの端に座っていた茂が、高志を見上げて少し微笑む。 「……もう、すぐにする?」 「うん」  高志の問い掛けに茂が頷く。それを見て、高志は部屋の電気を消した。 「あんまり暗くならないけど」 「いいよ」  茂はじっと座ったまま高志を待っている。高志はベッドの方に歩み寄っていった。膝をついてベッドに乗ると、ぎし、とマットレスが沈み込んだ。 「脱がせる?」  向かい合ったベッドの上で、茂が冗談ぽく裾を持ち上げる。高志も笑って頷いた。茂のTシャツに手を掛けると茂が腕を上げたので、そのまま服を首から抜いた。  露わになった茂の上半身を目にして、かすかな心のざわつきを感じる。これは性欲だろうか。自分は男にも欲情するのか。ずっと触りたかった茂の薄い体。高志は自分も手早く上半身を脱いだ。高志の体を見ていた茂が、再び視線を上げる。目が合うと、高志はそっと茂の体を押し倒した。 「――」  さすがに笑みの消えた茂の顔を見下ろしながら、高志は昨日の茂の言葉を思い出す。期待するように少しだけ開いた茂の唇を、自分の唇で塞いだ。すぐにキスは深くなった。  いつもの癖で無意識にその胸をすくい上げるように撫でた時、高志はその体が男のものであることを何度目かで思い出した。唇を離して、そこに目をやる。手を這わせると、小さな突起が手のひらに触れる。 「ここ、気持ちいい?」  親指の腹で軽く撫でながら聞いてみると、茂は少しだけその感触を確かめるように間をおいた後、 「んー……まあまあ?」 と答えた。  いかにも普段どおりなその口調に、高志は思わず小さく笑う。他の場所より敏感ではあっても、快感があるとまではいかないのだろう。  とりあえずそこを舌で舐めてみる。茂の体がびくっと震えた。  そのまま唇で挟み、舐め、吸い、硬くなってきたその小さな乳首を軽く噛んでまた舐める。気付くと、茂が耐えるように体を硬くしている。高志は顔を上げた。 「……嫌?」  聞いてみても、首を振る。 「気持ちいい?」  また首を振る。  体を起こして表情を窺うと、一瞬目が合った後、気まずげに逸らされた。 「……じゃなくて」 「え?」 「……お前に乳首舐められるとか、思ってもみなかったから」 「嫌?」 「嫌とかじゃない」 首を振る茂を見て、高志はひとまずそのまま続けることにした。反対の乳首に舌を這わせる。  茂がこんな風に戸惑いを見せるのは珍しかった。  しかし考えてみれば、大学時代に何回か体を重ねた時、自分は挿入以外に殆ど何もしなかったことを思い出す。  キスに応えたのがほんの数回。それだけ。愛撫と言えることをした覚えがない。何度か抱き締められても、手を回し返したこともなかった。 ――もしかして自分は無自覚に何度も茂を傷付けていたんじゃないか。  思わずもう一度体を起こして茂の顔を覗き込むと、気付いた茂が、困ったように笑った。 「やっぱつまんない?」 「え?」 「胸ないしな」 「そんなこと思ってない」  茂が高志の言葉を吟味するようにじっと見上げてくる。安心させるように軽くキスした後、高志は再びその胸に唇を寄せた。滑らかな肌を唇と舌でなぞり、脇腹を手で撫でる。茂が一瞬反応する。肌の下の肋骨の感触と、そこから続く細い腰。筋肉の硬い弾力。高志はその輪郭を何度も手で確かめた。茂の腹部に力が入り、背中が反る。何度目かで腰を撫で下ろした後、高志はそのままスウェットパンツのウエストに手をかけた。  全てを脱がせた後、茂の左右の脚を開いてその間に身を滑り込ませ、その敏感なものを軽く握る。手を動かすと、徐々に形が変わってくる。茂はじっと身を任せていた。手の中に収めたそれを優しく刺激しながら、高志はもう片方の手で更に下を探り始めた。

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