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第10章 12月-二人(4)

「――なあ」  ヘッドボードのジェルとゴムを取ろうと身を起こすと、茂が下から話し掛けてくる。 「ん?」 「矢野さんにやったみたいにやって」  そう言った茂が何を求めているのか、高志にはすぐに分かった。 「いいよ」  ゴムとジェルをいったんシーツの上に置き、高志は少し後ろに下がって腰を下ろした。起き上がった茂が高志の前で膝立ちになる。 「俺にもたれて」 「こう?」  間近に来た茂が高志の肩に手を置く。 「うん」  片手を茂の体に回して支えながら、もう片手でジェルを取ろうと視線をシーツに落とすと、ふと首の辺りが温かいもので包まれた。 「――」  支えていた手をそっと背中に回すと、きゅ、と茂の腕に力が込められる。昔、何度か同じように抱き締められた覚えがあった。高志はもう片方の手も茂の背中に回して、今度こそちゃんと抱き締め返した。 「……藤代」  密着した胸から体温が伝わってくる。温かくて柔らかい、吸い付くようなその肌の感触は充分になまめかしく感じられ、高志は片手で茂の後頭部を抱き寄せた。 「……お前、矢野さんともこんな風にしたの」 「こんなに近付いてない」  回された腕の力が更に強くなる。 「気になる?」  そう聞いてみると、小さく頷く動きが伝わってきた。 「やっぱ女の子とならできるのかって思った」 「今のお前の方が近いよ」  茂がもう一度頷く。 「お前の方が、触りたいし」 「……羨ましかっただけ」 「お前の連絡先と交換条件だって言っただろ。じゃなかったらしてない」 「……うん」 「細谷」  高志の呼び掛けに、茂が顔を上げる。引き寄せると、意図を察した茂が自ら唇を寄せてきた。強めに唇を吸われる。  昔なら戸惑うだけだった。今なら求められるのが嬉しいと思う。茂が言ったのもこういうことだろう。昔の自分が与えることのできなかった喜び。  高志に優しくされたい。高志からキスされたら嬉しい。昨日そう言った茂。 ――ずっと、どれだけの感情を飲み込んで自分に体を預けていたのか。  せめて今、茂の求めるだけずっとキスを続けた。茂の背中に手を回し、ぎゅっと力強く抱き締める。高志が満たされたように、茂の心も満たされるまで。  やがて茂が唇を離して体を起こしたので、高志はジェルを手に取った。再び軽く体重を預けてくる茂の肩越しに見ながら、指にゴムを被せ、そこにジェルを出す。 「痛かったら言えよ」 「うん」  茂の臀部に手をやり、ジェルを塗り込めてから、少しずつ慎重に指を入れていった。茂の呼吸が浅くなっているのが分かる。慎重に指を進め、奥まで入った頃に声を掛ける。 「平気?」 「……うん」  茂がある程度慣れた頃に、高志はいったん指を抜き、あらためて二本の指にゴムを被せた。指を重ねて再び埋め込もうとした瞬間、肩に回された茂の腕に力がこもる。高志は指を止め、空いている手で宥めるように背中を撫でた。そしてもう一度ゆっくりと指を進めながら、茂の前を緩く握る。間近に聞こえる息遣いや腕の力の微妙な変化に注意を払い、何度も指を出し入れしながら徐々にそこを慣らしていった。前にも刺激を与えているせいか、茂の呼吸も速くなっている。萎えかけていた手の中のそれは、また少しずつ硬さを増してきていた。

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