7 / 332

7:作り話(終焉)

「声がっ聞こえたんですっ」  最早朦朧とする意識の中、俺は納屋の外から音がするのを聞きました。戸を叩く音です。  ダンダンダンダン。  余にも激しい音で、俺は重かった瞼をゆっくり開けました。  そして、次の瞬間聞こえてきたのは懐かしい声でした。  親友二人の声と、妹の声。  最初は幻聴かと思いました。熱のせいで俺はとうとうおかしくなったのだと。  けれど、その声が余にもハッキリ聞こえてくるものですから、俺は必死に目を開け、耳を傾けました。  他にも声はたくさん聞こえた。  オブを連れ戻しにきた召使い達や、妹やフロムを止めに来た両親達の声も混じっているようで。  きっと、妹のニアがフロムに俺の事を言いつけたんでしょう。 そして、フロムがオブを呼んだ。 誰もが心のどこかで俺が長くない事を知っていたから。  『死ぬなよ!おい!離せ!俺が医者になるから!なぁ!生きてるよな!おい!』  『なんでこんなとこに入れられなきゃならないんだ!どうして!俺は強いから伝染らない!だから離せ!』  『お兄ちゃん!私のせいでこんなとこに入れられて……!ごめんなさい!ごめんなさい!』  皆の声を遠く聞きながら、けれど俺はもう声を上げる事も、最早動く事も出来ませんでした。  その後、俺がいつ死んだのか。俺自身にもわかりません。 ただ、最後に聞こえた3人の声はハッキリと覚えています。  それだけが、俺にとっては唯一の 「…………救いでしたっ。ううっ、ううっ」 「うっ、うっ、ううっ」  ここまで話し終えるのに、俺と画家はどれ程の酒を飲み干しただろうか。 全然わからない。  しかし、この達成感はなんだろう。かなり気分が良い。  というか、この画家。俺を褒める以上に、自分も聞き上手ではないか。 めちゃくちゃ泣くし、めちゃくちゃ反応いいし。お陰で、本当に気分良く作り話ができた。設定も細く盛れた。 「っっうう。さぞかし、キミの親友や妹は歯痒かっただろうっ……キミも一人でっ」 「俺もっ、アイツらに会いたいっ。皆無事だったのか……病気になってないことだけが……俺の気がかりでっ!っうう」  画家に流されて、俺まで居もしない連中に会いたくて涙に震えた。  これはきっと明日あたり、今日の事を思い出してかなり寒い気持ちになるに違いない。    けれど、今は全然かまわない!  何故なら、めっちゃ楽しいから!  俺は腹から湧き上がってくる、そのフワフワとした根拠のない楽しさに、酒の力の凄さを骨身にしみて実感した。  遠くでマスターも、目頭を抑えている。少し辺りを見渡すと、他の客まで目頭を抑えているではないか。 -----気分良すぎて、幸せが過ぎるわ!

ともだちにシェアしよう!