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(外伝25):金持ち父さん、貧乏父さん(25)

『……ヨル、来たか』  俺は大岩の上で、ヨルを待っていた。いつもはヨルの方が先に待ってくれているのだが、今日ばかりは俺が一番乗りだ。  一番乗りして、大岩の上へと腰かけたかった。もう、俺の足が大丈夫である事を、ヨルに見せる為に。 『スルー、俺は……お前に色々と言いたいことと、ききたい事が、たくさんあってだな』 『…………』 『スルー、頼む。聞いてくれないか』  最近、ヨルはずっと、大岩の上ではなく、原っぱの方で俺を待ってくれていた。それは、俺の足を気遣っての事だと、俺は知っている。分かっている。  ヨルはかなりやに恋をしていても、俺には優しかった。ずっと、ずっと優しかった。 『昨日、お前は、なぜあんなに』 --------怒ったんだ?帰ってしまったんだ?  そんなヨルの問いを遮るように、俺はピョンと大岩の上から飛び降りてヨルの前へと降り立った。  ほら、見ろ。ヨル。お前のお陰でもう足は完全に治った。痛くない、痛くないぞ。  だから――。 『ヨル、俺と踊ってくれないか?』 『……』  俺は何度目になるか分からない、ヨルへの踊りへの誘いに、少しだけ不安になった。片膝をつき、差し出される手が、今まで取って貰えなかった俺の手が。 『ヨル、おねがい』 『っ』  情けない声が出てしまった。本当は格好良く何の滞りもない、いつもの俺みたいにヨルをダンスへと誘いたかったのに。こんなの格好良くない。こんなの、お誘いじゃない。  懇願じゃないか。 『スルー。俺は……お前に聞きたい事も、伝えたい事も、したい事も沢山、ある』 『……その中に、俺とのダンスは入っているか?』  俺は恐る恐る尋ねる。差し出した手が少し疲れてきた。一旦下ろそうか。  そう、俺が思った時だった。 『もちろん。入っている』  俺の手がヨルの手によって勢いよく引き上げられていた。俺とヨルが向かい合う。ヨルの後ろには春の夜空と、大きな月。  どうやら、今日は満月のようだ。ヨル、ヨル、ヨル。 『ヨル、まずは一緒に踊ろう。きっと俺達のダンスが誰よりも素敵だ!インとオブより素敵な筈なんだ!』 『あぁ、きっとそうだろう』  ヨルが、そんなの当たり前ではないかという表情で、口元に素敵な笑みを浮かべて答えてくれるのが、俺には嬉しくて、嬉しくて。  俺はヨルと草原に飛び出していた。  俺は夜は好きだ。俺を叱らないし、俺を不自由にしない。自由でいさせてくれる。夜は優しい。  俺は、ヨルが好きだ。 『ヨル!俺のしたい事の中には、小さなヨルへのよしよしも入っているからな!次はソレをしよう!そして、ヨルが俺にしたい事も、今日全部しよう!ぜったいに、今日!今夜!全部だ!』 『あぁ、そうしよう。全部、今夜しよう』  微笑んで頷くヨルは素敵の上の上。俺を見てくれるヨルはもっと上。  ごめんな、かなりや。お前は死んでしまって、とても可哀想だけれど、俺と居る時のヨルは、俺のだ。  他の時のヨルは、お前のだろうけど、今この時だけは――。 『ヨルは、俺の!』 『…………!』  俺は嬉しさの余り自分が口に出している事すら気付かずに、ヨルと共に草原という舞台で踊りつくした。もちろん互いを思い合う二人が、互いの足など踏もう筈もない。  俺とヨルのダンスは、世界一だ。 ----------ララララララ。  サヨナラの顔をしていないサヨナラよ!来るなら来てみろ!どんと来い!  俺はサヨナラを怖がらない!何故なら、俺は全部を“今夜”やってしまうからだ!  俺のヨルとの未来への希望を、サヨナラによって、奪わせはしない!  俺は必ず訪れるサヨナラの時に立ち向かうように、ヨルと繋いだ手を、力いっぱい握り締めた。

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