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第十話 性欲処理 下

「あっ、あ、まって、そこ、そんなに強くしちゃ、あっ」 「すぐイっちゃいそうだもんね。別にイけばいいじゃん。ほら、見ててあげるから」 「あっ、あ……ッ!」  とろとろと我慢汁が湧き水のように溢れ出ている性器を軽く扱かれただけで達してしまった。極めた瞬間、腰骨が(きし)むようで灼熱(しゃくねつ)に苛まれる。  突き抜けるような快感が身体を脱力させる。はあはあと息も整わない状態がずっと続くと思うと、ぞっとする反面きゅうきゅうと腹底が熱く燃え上がる。けれど、この息苦しさが余計に興奮を(あお)った。  飛び散った精液が晴の服を汚し、恥ずかしさのあまり泣いてしまう。 「そんなに俺の手がいいんだ。どうされるのが一番好き? 答えられたらその通りにしてあげる」  晴はそう言うと服を脱ぎ捨てた。見上げれば色づいた肉体が(さら)され、男の匂いを放つ。蓮は黙ってそれを下から見惚れていた。  脱ぐ前からわかっていたが、俺と違ってスポーツをやっている人のような引き締まった身体をしていた。そういえば鍛えていると言っていた。弁護士になると厄介事に巻き込まれることもあるそうで、毎日トレーニングしているらしい。腕だって盛り上がっている筋肉が綺麗に肉付いている。それに引っ張る力強さがある。  そんな身体に触れられていると思うと溢れ出る涙が止められそうになかった。 「涙が出るほど嫌なわけ? それともそういう気の寄せ方して誘ってるの?」 「あ…違くて、そうじゃ…」  ないと言ったところでなにも変わらない気がする。  蓮はびくびくする心臓の鼓動を隠しつつ慎重に言葉を選んだ。 「や、優しくしてくれ…」 「……」  な、なんで黙ってるんだ。もしかして答えると思わなかったのか。まさかわざとらしいと思われたのか。言葉を選んだつもりだったけれど、相手からみれば強請るような言葉だったかもしれない。  晴は目を見開いていた。けれどすぐに張りついた仮面のようなニッコリとした笑みを浮かべている。なにかを悟ったような色のない顔だった。  蓮の顔がサァッと青ざめる。 「いいよ。でもどういうやり方が兄さんの言う優しいのかわからないから、俺のも触って教えてよ」 「え…?」 「簡単でしょ。他の人とやったようにやればいいんだから」  冷たく放たれた言葉。それからずるっと、晴の性器を取り出した。凶暴で野獣のような大きさが、すでに屹立していた。血管が浮き上がり、どくどくと脈を打って震えている。  その凶器を見て、蓮はごくりと喉を鳴らす。さらに駆け足になろうとする心臓を(なだ)めて、触りたくなる衝動をぐっと堪えた。すると、黙って聞いていた晴に腕を持ってかれる。 「ほら、やってみせてよ。兄さんの手、白くて華奢だから俺の触ったらどうなっちゃうかな」 「あ…」  触ったとたん、びく、と揺れ、膨れ上がった晴の性器に愛しさが込み上げてくる。蓮は手のひらで撫でるように回し始めた。  すると俺の性器とぴったりと合わせてきて、再び反り勃った自分のものまで触る羽目になる。一緒に手を合わせ、上下に扱かれる。肉体が弾けそうなほど気持ちがいい。自分じゃ得られない快感に身悶(みもだ)える。 「あっ、あぁ、や、やだ」  恥ずかしさからなのか、みっともない格好で乱れる自分の声に艶が増す。見たくもない醜態(しゅうたい)に膝を曲げて、足の爪先がきゅっとシーツを巻き込む。 「えっろい声」 「ん、ふ、ぅ、や、ら…っ」 「普段一人でするときもこれだと、先が思いやられるなぁ」 「もう、やめっ、ッ!」  あまりの強すぎる刺激のせいで、震えていた手を誤って強めてしまう。  その小さな変化が良かったのか、色っぽい声で晴が吐息を漏らした。目を見張ると晴は唇を吊り上げて雄々しく微笑んでいた。 「あ…そこ、きもちいい、兄さん」 「あっ、ぁ、う…っ」  愉悦が含まれている声を聞いた瞬間、どろどろと流れ込む甘い蜜に取り込まれそうになり、淫らな喘ぎ声が止まらなかった。 「気持ちいことに抗えないんだ。かわいい」 「あ、あっ、あ…っ、ん」  まさにその通りで、散々震えていた手は快楽ほしさに自ら手をいやらしく動かす。ぬるぬると滑りがよくなりすぎるほど濡らすのも止められず、ひたすら底の見えない快感を貪り食う獣ように腰を振っていた。  はしたなくて、いたたまれない。けれど、それでも内から熱せられるマグマのような愉悦の享楽に灼かれていく。 「あっ、あ…っ、いく、いきっ、そう…っ、あ、んっ」 「イくときの顔見せて」 「あっ、あ…っ、あ、や…っ、や、あ、あぁっ」  見られると思い、いやいやと横に顔を振る。しかし、溢れ出ている頬を流れる涙を舌で舐め取られ、びくびくと腰を浮かせながら二回目の射精が飛び散った。  ぴくぴくと震え、白蜜で濡れている性器は萎えることなく、かわいそうなほど勃っていた。 「まだ構って欲しいみたいだから、俺の手伝ってもらおうかな」 「は、ぁ、ま、あっ⁉︎」  凶暴な男根が精液でべとべとになったのをいいことに、ずりずりと筋にそって滑っていく。ぬるぬるとした白蜜のおかげで摩擦を円滑にさせ、気持ちよさそうに顔を歪めている。  蓮は達したばかりの性器をまた一緒に触られ、これ以上おかしくなることを恐れ、声を手で押さえ込んでいた。  しかし、それすら晴は許さなかった。 「声を我慢していいなんて一言も許可してないけど」 「あっ、やら、ま、あぁ…っ」 「まって、とか、やだ、とかばっかりだけど、そういうのが男を悦ばせるってわからないわけ? いや、兄さんのことだからわかった上でか」  そのまま手首を引っ張られ、今にもイキそうな晴の性器の先に手を乗せられる。悠々と天を向いた、重たげな凶器はさらに膨れ上がった。 「そのまま先のとこに手、さわってて…っ」 「あ、あぁ…っ、ん、んんっ」  もう触られてもないのに、性器が擦られているというだけでこんなにも自分から甘い声が飛んでいく。  だんだん晴からも荒い吐息が聞こえてくる。  蓮は自分と同じように気持ちよくなってほしいと思い、手のひらで、ぐり、と亀頭(きとう)を押しつけた。 「ッ…遊び慣れてんじゃん」  けれど気に障ったらしく、上下に激しく性器を扱かれる。 「だめぇ、あっ、やだ、イったばかりだから、やだ、やあっ」  張り詰めて精路をかけてくるあの感覚が迫ってきている。いくら首を振ったところで今更止めてくれるわけもないのに、それでもじっとしてはいられなかった。迫り来る大きな快感の波に覆われてしまうのが怖いからだ。  ぐちぐち、と水音が激しくなり、火傷しそうなほど滾った性器がドクドクと脈を激しく打っている。もうすぐ達するのが嫌でも伝わってくる。 「そのまま、両手で受け止めてよ。兄さん」 「あ、あ、やっ、だめ、おれも、いき、そうっ、あ、あっ、んあ…っ!」  甘く掠れた低音で言われ、背筋にぞくぞくっと震えが走った。シーツを引っ張っていたもう片方の手も奪われ、びくびく震えている性器に添えられた。小さな呻き声と共に、びゅるびゅるっ、と手の中に吐き出される大量の精液。  その勢いに呑まれたのか、びくびくと白い喉を煽情(せんじょう)的に仰け反らせる蓮。腰を浮かせながら極めてしまう。ずっと快楽の天辺にいる感覚がして、戻ってこれない。  終わった快楽の余韻でがくがくと震える身体を、あちこちあやすように撫でてく晴。  腕、鎖骨、脇、腰骨、臍…といった骨ばった肌を中心に触るだけ撫でて、さらに快感を長引かせる。 「あっ、あ…っ、あ」  その愛撫だけでまた極めてしまうほど、今の身体はそんな些細な刺激で乱れてしまう。 「見てみてよ。兄さんの真っ白な肌に俺の汚い白いもんが重なって、すげぇ興奮する」  それが本心なのかもわからなかった。けれど、理性が飛びかかっている今の自分にとっては、その言葉が言い知れない高騰を覚えた。  夥しい量の白濁が腹や性器を汚している。それを下へと流れるように手で広げていく晴。 「こんだけ出したもんがあるならローションもいらないかな」  ぐったりしている俺の前で楽しそうにしている声が上から降ってくる。未だびくびくと小刻みに震えているのも遠慮なしに進めていく。  するりと精液塗れの晴の手が陰囊(いんのう)を通り越し、会陰(えいん)を押しながら後孔に触れる。それすら「ひっ」と声を上げ、これからされることに臆する。 「すぐにでも這入れそうかと思えばそうでもなさそうだな…。ま、自分でも構ってるぐらいだから問題はないよね」  どろどろの液体がついた指先がぐっと小さな後孔を押し入った。 「い、っ…、う」 「どうせ今日もするつもりだったでしょ? 中は期待してたみたいだね。ふ、あっついよ」 「ちが、あ、あ…ッ」  なんでそんなことまで知っているのとか、言いたいことは沢山あるのに口から出るのは、喘ぎ声ばかりで情けなくなる。  中でごつりとした骨太い指が内壁をほぐしていく。異物が入り込んでいく感覚は慣れるとすぐに粘膜と絡みついて、中のものを締めつける。しかもそれが晴の指だということがさらに体内で新たな快感が生まれていった。 「あ、ぁ…っ」 「指蕩けそう。一本だけでもそんな締めつけちゃって、取り出されたくなくて必死だね、兄さん」 「ちがう、そんなんじゃ、あっ」  ずるりと急速に媚肉を擦られ、蓮は初めて晴に中を触られた歓喜で勝手に声が出てしまう。ぎゅっと眉を顰め、快感に耐えようと息をひそめていた。けれど、すぐに唇が解け、甘い声が漏れてしまった。 「ひゃっ、あっ……!」  抜かれてしまった指の代わりに、ぴとっ、と性器を後孔にくっつけられる。 「ごめんね、手が滑っちゃって。でもこれが欲しそうに蠢いていたから早い方が嬉しいかなって」  ひくひくと物欲しそうに収斂(しゅうれん)する後孔にあてがう晴の怒張した男根。後孔からでも感じる強烈な主張で存在感を知らしめられる。蓮の後孔は虚を満たしてくれるそれをちゅうちゅうとほしがり始めた。 「いや、や、まだ、入らない。そんなの、ぜったい、入らない」  そんな大きなものを慣らさず這入れば裂けるに決まっている。ただでさえ後ろは経験がない。  怖さでぶるぶると涙目になりながら首を振りまくった。 「痛みより快楽を忘れられないようにする方がよっぽど辛いらしいから、ゆっくりやるよ。そこの引き出しに入ってるでしょ? ローション」  晴が指差したのは、ベッドより少し高めのナイトテーブル。その一番上の引き出しの奥に確かに入っている。  いつどうやって知ったのか。さっきからどこの箇所も知られているような口ぶりに背筋に氷を流されたような気分だった。けれど、今はそんなことより晴に抱いてもらえる喜びが上回る。  致し方なく這うようにそこからボトルのローションを取り出し、悩んだ末コンドームも何枚か渡した。 「驚いた。一回で終わらせないってこと?」 「そんなつもりじゃ!」 「けど、サイズ違うから使えないし、生の方が気持ちいいよ」 「腹、痛くなるから駄目だ」 「俺が兄さん寝落ちても掻き出してあげるから問題ないよ」 「ふざけんな」 「ふざけてないよ。兄さんこそいいの? だって直接生のものが中で動かされるんだよ。音も形も伝わって、中で思いっきり射精される」 「あ……」 「あっついの出されるのって、どんな気分? 味わえるときにしておかないと、ね? じっくり侵食されて拡がっていく欲の塊はとても口では表現できないだろうし」  誘導されたかのように手のひらが腹の上をさする。ごくりと喉が上下に動きながら想像してしまう。身体中がひくひくと打ち震える。じわじわと這い回る欲望の量に耐えられるだろうか。もう、挿れられることしか考えられなくなってしまっていた。 「想像するだけでえっちな汁を漏らすなんて兄さんてほんとえっち好きなんだね」  自身のものから、たらりと愛液が漏れているのが見える。見えない後孔もひくりと(うごめ)いているのを感じる。  蓮は否定できない自分がいたたまれなくて、顔を横に向けた。 「別にどうでもいいけど。ほら、こっちに掴まって」  そうして手首を奪われ、蓮はぐいっと抱き起こされた。背中を支えられ、あっという間に晴の股ぐらに座るような体勢に持ち込まれた。  ベッドで膝立ちになり抱き合う。顔を隠せない状態で心臓が破裂しそうになる。きっとあられもない姿を見て征服感を満たしたいのだと悲しくなった。けれど、その悲しみも吹き飛ばされるような衝撃で、晴の頭にしがみついてしまう。  驚いたことに大して肉も付いていなければ柔らかくもない双丘を揉まれていた。 「な、なに? やめろ、ばか」 「…遊んでいる割には、あんまし…」 「なんだよ!」 「いや、貧相だなって」 「うるさっ、あ…っ」  反論すら与えない急性さに甘い声が再び漏れ出す。晴の指が双丘の奥を割って後孔の入り口を撫でるよう刺激してくると、両膝がわなないた。 「あっ、ひ」 「力抜いてろ」  とろりとした冷たいものが双丘の間に流れ込んできて思わず悲鳴を上げてしまう。腰あたりからローションが垂れてきて、後孔を濡らしていく。  先ほど一本だけだった指が二本も入り、内側にある弱いところをいとも簡単に探り当てた。 「あっ、あ、だめ、だめ、そこはっ、あ、あぁ…っ」 「前立腺みっけ。ほんとここで男は駄目になるんだ」 「いや、いや…っ、そこぐりぐりされたら…っ」 「ぐりぐりしたらどうなるの? 言ってみせてよ、そのかわいいお口で。それとも実際するのとどっちがいい?」 「いう、いうから、ほぐしてさえくれれば」 「やっぱやめた」 「あぁ、うっ! ひ…っ、い、あ…っ」  内壁を擦り上げながら前立腺のしこりを指で押し潰す。いつ増えたか気づかなかった三本の指でばらばらに捏ね上げられる。敏感な(ひだ)が収斂している。  指を順番に弄られ、その度に、びくっ、びくっ、と愉悦で震える背中を晴がさわさわと撫でながら快感の深さを広げていく。 「あ、あっ…、ん、ん…っ、あ…」  きゅうきゅうと中を締めつけながら快感の底知れぬ深さにずぶずぶ沼っていく。倒れそうな身体を支えている晴に顔を合わせることが怖く、ぎゅうと頭を抱えていると、べろり、と胸に液体が濡らされる。胸の突起からわき起こる快感に身体があやしく動いてしまう。  腰が抜ける。骨が蕩ける。 「こんな乳首を顔に押し付けるなんて大胆だな。そんなに舐めて欲しかったなんて」 「あっ、いや…っ、そんなことまでされたら」 「イっちゃうって? イキ狂えばいいだろ。慣れてんだから」  じゅる、と胸を吸われ、中で蠢く指の横暴さに頭がおかしくなりそうだ。胸の奥と尻の中が栓で繋がっているかのように同時に抜かれ、快感の波が押し寄せた。 「あっ、あぁ…っ、ひ、いっ」  乳首を舌で舐られながら中の弱いところをぐりっと指で抉られ、蓮の背中が飛び跳ねた。 「あっ、あ…っ、あぁっ!」 「なんか、中痙攣(けいれん)してるみたいだけど中だけでイってる?」  言葉が出ないかわりに、びくっ、びくっ、と瀕死状態のような身体で返事を返す。  自分でも経験したことのないのない快楽に襲われ、目にチカチカと火花が飛ぶ。意味のない母音だけが発せられる口からは飲み込みきれない唾液がたらりと落ちていく。 「あっ、あ……っ、あ、あ…、ぁ……」  中では指が関節を曲げて前立腺をごりごりと押し続けている。そのタイミングで、ちゅうっ、と乳首に吸いつかれて、理性の糸が切れそうになる。  神経は甘い蜂蜜瓶の中に、どぼん、と落ちたように、どろどろになっていった。 「そろそろいいか」  もはや返事もできない蓮に回答を求めることなく、独り言のように呟くと後ろから指を抜いた。ぬぽっ、と音を立ててゆっくり抜かれた中を蠢いていた(たこ)の足たちが消えていく。後孔が名残惜しげに収縮し、犯すものを失って泣いていた。 「うわ、エッロ。さっきよりヒクついてるよ、兄さん。まさかこんな淫乱だったなんて弟としてはショックだなぁ」 「あ…っ、ごめ、ん、なさ…、あ、あっ」 「けど、弟にまで手を出されちゃうなんてかわいそうな兄さん。あぁ、でもそれがイイんだよね?」 「ゔっ、ぅ…っ」  他人事のように聞かされて、心と身体が破られた紙のように痛い。  蓮の瞼に透明な雫が溢れる。 「泣かないで。これから兄さんにとっても嬉しいことが起きるんだから…ほら、欲しがってた俺のもの愉しんでよ」  興奮しきった晴の声は聞き間違いではない。押しつけている晴のものがそれを証明している。  どんな顔で俺を見ているのだろう。  目を見ようとしたとき、蓮は太ももを持たれ、大きくて硬いものを、ぐぐっ、と後孔にあてられて息を詰めた。 「あ、あ…っ」  挿れられる。  後孔に押しつけられているのは、晴の男根。天を突き刺すような凶器。蓮は震えながら晴を今度こそ見つめる。未だに信じられなくて、ありえない、と思っている自分がいる。  これが這入ったら、自分はきっと戻れない。晴も。兄弟の関係には戻れない。  それでもその恐怖より勝ったのは、早く挿れてめちゃくちゃにしてほしい、という醜い肉情だった。  晴と目が合う。猛烈なほど欲に負けた瞳を察したのか、晴は眉を寄せ、舌打ちしながら腰を進めた。ぐぷぷっ、と熱い肉棒が中へと押し入ってきた。 「あ…、あ…、あ──」  這入ったとたん、ぶわっと花が咲き乱れたように狂いそうになる。肉環をこじ開けられた衝撃で痛みが走ったけれど、それを上回る快楽に喉を震わせた。 「っ…喰われそう、だけど、兄さんの方が危なそうだね」 「あっ、あぁ…っ、あ、んっ、おっきい…っ」 「今までより一番大きんだ」 「はら、こわれちゃ、あ、あ…っ」 「もっと壊れてもらわないと困るんだよ」  たんたん、と太ももが当たる音を聞きながらゆっくりと上下に腰を動かし始めた。  初めてのことを弟としてしまった動揺が今更反動できてしまい、怖くなる。思わず、ぎゅっと晴の頭を抱いた。泣きながら息を吐いては吸って、肉洞を抉られるたびに嬌声を上げた。 「あっ、あ、あ……っ、ぅん、んっ、はる、は、る……っ」  膝立ちはとっくに崩れ、もたれ掛かっている状態の中、ふわっ、と汗の匂いがした。髪に鼻先を埋めている蓮はその男の香りにくらくらしてしまう。匂いだけで身体を(あぶ)らさせられる材料になる。  すきが、あふれる。  ゆるゆると上下に律動を繰り返したおかげで後孔が緩みきったとたん、晴が目の前にある乳首を吸い始めた。 「あっ、あ…んっ」  乳首を舐められると同時に晴の手が身体中を愛撫してきた。今はどこの箇所も感じてしまう。そんな身体をいっぺんに責められるというのは、どこに感覚を逃したらいいのかわからなくなる。受ける快感は単純な二倍ではなく、三倍、四倍にもなっていく。追い詰められた快感に、もうなにも考えられなくなり、獣ように喘ぐことしかできない。 「あ、あぁっ、あ…っ、ん、ん…っ」 「兄さんの肌って雪みたいに薄くて、熱いのに弱いからすぐに消えちゃいそう。すげぇ綺麗」 「あっ、あぁ…っ、あっ、あっ」 「肌質が弱いから痕とかどうなっちゃうかな。血が滲むように一つ一つ大きくなるよね」 「やぁ、ひ、い、う~…っ」  突然腰を突き上げられ、勢いよく肉洞を擦り上げられる。汗ばんだ肢体を何度も反らしながら、その強烈な快感に耐える。そのまま倒れて気を失いたかった。けれどそれはけして許さないだろう。晴はすぐに背中を抱き、引き寄せた。 「それにその声…脳味噌ぶっ壊されそうなほど官能的で、めちゃくちゃにしたくなる」  ぐぐっと中で亀頭の出張った部分が肉を捲りながら奥へと抉じ開けようとぐりぐり捩じ込んでくる。ハッとした蓮は咄嗟に声を上げた。 「あっ、まっ」 「待てない」  蓮の足を大きく持ち上げ、晴は力任せに身体を突き刺す。  ぐぽっと最奥に入ったような肉を貫いた刺激が身体中に広がり、声なき声が飛んだ。 「ッ~~~~~‼︎」  脳味噌がぶっ壊れたのはこっちだった。  死ぬほどよすぎて全ての力が抜けてしまう。神経という神経の巣窟まで侵され、理性は消え失せた。手に負えない快楽が込み上げてきたようで、びくびくと太ももが痙攣し、甘イキを繰り返す。 「こんなことできるの、俺だけだから。もっと、もっと、イキ狂って、俺がいないと生きられない身体にしてやる」  ——してほしい。  できれば一生おまえとしか使い物にならないくらいの傷をつけてほしい、と素直にそう思った。  そんな愛おしさが込み上げてきて、きゅうっと中を締めつける。瞬間、とてつもなく熱いものが中を圧迫する。この圧迫感さえ喜悦へと変わり、腹の奥をじわじわと満たしていく。 「あ……っ、あ……。あっ、あ─…」  初めてのはずなのに、はしたなくて泣きじゃくる。中で吐精(とせい)されて、嬉しくなった自分の身体は溢れきった甘い蜜に狂わされる。熱い飛沫が媚肉に叩きつけられた感覚に蓮もまた法悦に包まれて極めた。触ってもいないはずの性器から白蜜を漏れている。 (すき。すき……どうすれば伝わる)  止めどなく溢れる身体の芯から漏れる想いは綺麗なものなんだと訴えたいのに、出てくるのは淫らな喘ぎ声ばかりで蓮は(すす)り泣いた。  欲を流され続けられても、消えていくことのない快楽の波に溺れていた。中でびくびくしている晴の男根は瞬く間に硬くなった。 「俺の挿れてるのに、まだひくひく男を引き寄せてる。満足できないって?」  悲しみを滲ませたような声に、違う違うと口を動かすも声が出ない。 「水が欲しい? 声は大事だもんね…けど、俺が満足するまで駄目だよ。それから飲ませてあげる。そのかわり中でいっぱい俺のものをあげるからいいでしょ?」 「あ、ああぁっ!」  そう言いながら押し倒され、抽送が再開した。ばちゅ、ばちゅ、と肉同士の激しい音が部屋中に響く。晴の放ったものが媚肉を濡らして、擦られる感覚がひどく生々しい。腰を揺らすたびに精を溜めた肉洞の隙間から白濁が零れてシーツを汚した。  晴の性を咥えこんでいるのに、中に出されたというのに、白く濡れている孔はひくひくと収縮を繰り返す。まだ快楽を求めているようだ。  晴はもう容赦なく肉環を抉り、中の弱いところを擦り上げる。強烈な快感が身体を駆けていく。蓮は、もっと気持ちよくなりたい、なってほしい、の一心で乱れよがり、もっともっとと貪欲に腰を振った。 「もう腰を揺らしてんじゃん。俺の動きじゃ全然駄目だっていいたいわけ?」 「あぁっ、あっ、ちが、あっ、あ、ん…っ」  淫蕩(いんとう)な兄さん、と嗤う晴に涙腺が溶けていった蓮が首を振り続ける。 (違う、違う。おまえが好きだから。だから俺の身体反応してんだ) 「っ…蓮、にい…」  苦渋の声に、心臓が麻痺しそうになった。 (いま、なんて)  そう考える余裕もなく、晴に乳首を再び舐められ、その愉悦にまた極めてしまう。 「あっ、あぁ…っ!はる、はるっ」 「れん、れん…っ」  乳暈ごと肉厚な舌で舐め上げられ、中で怒張したものがごつごつと腹を押しつぶしていく。  蓮は無意識に自身の精で汚れた腹に手を置き、ごぽりと膨らんでいる腹を撫でた。 (孕んじゃえばいいのに) 「孕んじまえばいいのに」  聞き間違えだろうか。それとも声に出してしまったのか、はしたない欲が現実に耳を通った気がした。  中でこれでもかとぐりぐりと突かれ、身体がバラバラになるほどの極みに呑まれた。  再び腹の中に叩きつけられた精が蠢く媚肉を犯し、意識が飛んでいきそうになる。  ──晴、好きだ。好きなんだ。  届かない想いは世界中にいくらでも存在する。これもそれの内のものに過ぎない。そう思えば悲しみも紛れる。それほど落胆することじゃない、と自分を慰める。抱いてもらえただけでも幸運なことだと蓮は薄れゆく意識の中で思った。  晴が昔のように「蓮兄」と呼ぶ意味が少しでも良い方向でありますように、と祈るよう最後に美しい声を上げて、完全に気を失った。    目が覚めると隣に膝を抱えて俯いていた晴がいた。  中にまだ入ってるような感覚と鈍痛はあるものの、晴に言われた通り、吐き出した精液はない気がした。 「…は、る。だいじょうぶ、か…?」 「は?」  怪訝そうな顔でこちらをみる晴。それもそうだ。一番大丈夫じゃないのは自分で、もうすぐ死にそうだと思うほど疲れ果てている。 「まんぞく、したのか」 「するわけないじゃん。意味がわからない。どうして怒らないの」 「どうして…」  こんなことしたんだ。  意識が遠くへ吹いていってしまいそうで晴の答えも答えられず、自分のことばかり聞く。  この世で最も情けない声を出したと思う。情けでも、いい。好きじゃなくてもいい。けれど、どうか顔だけは見せてほしい。 「俺は……っ、兄さんが俺の下で悦んでる姿が見たかっただけだから」  なんの感情もこもってないような言葉を最後に聞いて、ただ涙を流す。  晴は一切こちらを見ることなく寝室から出ていった。  泣いているような背中を見て、どうにかして手を伸ばさなければならないと身体に力を込めるも、暗くなった視界になにもかも遮られた。

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