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番外編
「その、聞きたいことがあるんだが」
もぞりとベッドの中でうずくまっていた兄さんがうさぎのようにぴょこっと顔だけを出して質問してきた。
「なに? もうシタくなったとか」
本気だったけれど、揶揄うように囁くと、真っ白な肌が桃色に火照っているのを見て喉を鳴らす。
「それでもいいけど、ちがくて…」
とそわそわと身体を揺らしながら期待そうにしている目を熱で茹でらせていた。
(意外と性欲強いな…もっと抱き潰すほど犯しても案外大丈夫そう)
細い身体を考慮してある程度無理させないようにしていた。どうやら思っていたよりも今まで身体を持て余していたようで心が安堵する。
「じゃ、朝のキス?」
「それはあたりまえだろ。いや、だからそういうんじゃなくて…」
まるで日常となっていることを今更なんの確認だと言わんばかりの言い方だった。そんな晴の周りにはお花畑でも咲きそうだった。
(当たり前なんだ…嬉しい。無理やりでもキスし続けて正解だった)
「その…法律の勉強ってやっぱ俺のせいだよな?」
いつまでもそんなことを気にしている兄がいじらしくも愛おしい。
気にする必要ないと言ったのに、全く。キスでその煩い口を一生塞いでしまおうか。
「あぁ、勉強はもちろん同性婚ができるように法律を変えるためだよ」
はっきりと兄さんの思い込みを折ると心底驚いた顔をした。
「変えられるのは若者の強い意志と賢い頭だからね。社会の暗黙のルールにいつまでも疑念を抱かずにいるといつまで経っても未来には進んでいかないしね」
「そ、そんなことまで考えてたのか…」
「選択肢が増えるんだよ。もう兄さんが傷つかないようにするのが俺のしたいことだったから」
兄さんの苦しみを少しでも片づけてあげたかった。当時まだ子どもだった自分は勉強するしかなかった。けれど今は違う。もう隣で、前で守れる。離れないように縛れる。
ようやく兄さんを独り占めできるし、もう家族だけど合法的に俺のものにだってできる。こんな隠れた欲だらけの願望だけど、兄さんをずっと一番大切にしていきたいからなんでもするよ。
晴はうさぎのような兄に向かって微笑む。すると泣きそうになりながらも嬉しそうにした蓮が布団から飛び出して抱きついてきた。
「ありがとう、晴。愛してる」
「ただの俺のわがままだよ。俺も愛してるよ、蓮」
わがままどころか、ただの醜い執着だよ、兄さん。その異常性を知ってるだろ。わかってるくせに。俺らはお互いに“そこ”に惹かれ合って依存していることに。
名前呼びにまだ慣れていないのか照れているのを隠すように話を戻してきた。
「というかよく東京大学にいけたな。前も褒めたけど、さすが俺の弟」
蓮は晴の頭を撫でながら微笑む。
「その顔が見たかったからね」
「い、いつでも見れるだろ。これからは…」
唇を尖らかせてから枕で真っ赤な顔を隠す。それなのに、頭の上に置いてある手を退かさないのは兄なりの構って、という甘えだ。
(かわいい。昔から甘え方ド下手くそなくせに俺にだけは身を寄せてくるんだから)
「そのちくはぐさがもっと独占したくなるの」
もう自分のものになっているのに、まだ足りない。
「た、足りなかったのか?」
蓮は慌てて、よしよしと髪を歌うように奏でる。
「もっと」
「昔から好きだな、撫でてもらうの」
「うん、蓮兄限定だけどね」
「…今度俺と晴との曲を作ってもいいか? こういうことでしか俺はおまえに捧げられるものがないから…」
「いいよ。けど今はそんなのいいから、もっと甘えさせて」
そうしたら兄さんも覚えて俺にもっと溺れてくれるでしょ。
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