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第18話

 再び宮下とのキスに溺れる。  さっきまでと少し違うのは、勇勢なのは宮下だということ……。  宮下は一度出してスッキリして仕切り直しなのかもしれないが、俺は口での愛撫から続けての一回戦目で、快感は追い上げられるばかり。あけすけに言ってしまえば、ヤリたくて仕方ない。  舌を絡められ吸われているうちに、熱い手がごそごそと着たばかりの服を探る。脇腹をスルリと撫でられて「ひゃっ」と声が出た。 「加藤さん、触られるの、弱いんですか?」 「そんなこと、ないけど……」  だって、俺、今めちゃめちゃヤリたいからな?  どこを触われてもゾワゾワと気持ち良くて、もっと触れあいたい。  強い煙草を吸った時みたいにクラクラする頭でぼんやりと考える。離れそうな唇を追いかけて少し起き上がり、不安定になった身体を、宮下に抱き付いて支えた。 「ぅあっ……」  不意に訪れた強烈な感覚に、思わず驚いた声が出る。  宮下! 乳首触るなって!! そう言いたいのに、ビクッと身体が跳ねて声があふれそうで「んっんん……」とただ耐える。  とてもじゃないけどキスしてる余裕なんてない。塞がれていた唇を離して「やめろ」と呻いた。けれど、届いたのは弱々しい「ゃっ……」という声だけで……。その声に勇気づけられた宮下が、もう一方の乳首の輪郭をゆるくなぞり、中心を摘まみ弾く。 「ダメだっ……ってぇ……」  敏感な部分を触って欲しくなくて、逃げるみたいにして宮下にぎゅっと抱き付いた。  でも、……わかる! 今の「ゃっ……」は気持ちいいの『イヤ』だと思うやつ。今の「ダメ」はダメになっちゃうの『ダメ』だと思うやつ……!! 抱き付いたのは『もっとして』のやつ!! 『わかるけど、違うんだ! 本当に止めて!』って言いたくて、でも股間の性器が痛い程『気持ちいいんだろ?』って主張してる。  流されそうで、流されたくて……、だけど、それは無理だって!  なのに、ダメと言えないまま翻弄される。  唇を離した宮下がシャツを手繰りあげて、そろ……と乳首にキスをする。指とは違う柔らかくて温かいものが肌をなぞる。  ゾクっとした感覚が頭のてっぺんからつま先まで駆け抜けた。  とろりと体液があふれるのがわかる。身体が、次の快感を期待していた。  ここまでされたら、さすがにハッキリとわかる。  ……俺、宮下に抱かれんの?  身体はもっと、って快感を求めるのに、心の中では『どうしよう』が吹き荒れる。  プライドとか考えてる余裕なんてもうない。宮下に好きにされたいって思ってる自分も、確かに俺の中に居る。翻弄される快感をもっと知りたいと思ってる。  だけど、だけどさぁぁ……、  子猫みたいにペロペロと乳首を舐めている宮下が、背中に這わせた手をそろそろと腰の方に下げていく。  ハーフパンツのゴムに宮下の手がかかる。くいとゴムを引っ張っぱられてヒクリ、とオレが期待した。パンツの中を温かくて性急な手が辿る。だけど、宮下の手が目指したのは、俺の尻で……。  尻の肉をそろそろとなぞられ、むにっと掴まれる。  同時に鋭い歯に胸の先端をはむっと甘噛みされて、飛び上がる。 「ぁっ」  口から飛び出したのは、俺が出したとは信じられないような高い声。  これ、俺の声か!? と驚く間もない。  ──ひゃあああああぁぁ!!  尻! 肉! 捕まれてる!! どうしよう!!!  これ、絶対抱かれる! え? 俺が!?  どうする? ……どうしよう!?  宮下ぁ……! 俺の尻なんか揉んで楽しい!?  一人でパニックに陥っていると、むにむにしていた手がくるくると尻たぶを撫でて、それからするっと割れ目に近付いていく。  辿り着いた手は割れ目の上を軽くなぞって尾てい骨に辿り着くと、そこから指を這わせて尻の穴めがけて下っていき……、  そこが限界だった。  胸を舐める宮下のあたまにぎゅっと抱き付いて、制止する。 「……まって!」  だけど、宮下は止まらずに乳首にかじり付き、俺の身体は大きく跳ねる。反動でぎゅっと固まった尻に宮下の指が挟まれた。 「ぁっ」  痛みの余韻にビクビクと身体を震わせながら、必死に訴える。 「頼むから、待って……っ」 「なんれふか?」  俺は必死なのに、宮下は胸から口を離さずに先端を舐めながら俺に応える。胸の刺激に尻の力が弛んだのをいいことに、指は割れ目を行ったり来たりと撫でていた。 「頼む、待ってって……」  俺は『やだやだ、やめて!』と泣きつきたいのを堪えて訴える。 「……今、待ってます。なんです? 俺、止まれないって、言ったじゃないですか……」 「ごめん、ほんと、悪い……。ちょっと、待って……」  もう何だかわかんなくて、今まで聞いたことがない宮下の強い口調に声が震えた。  ピタリ、と宮下が止まる。 「悪い……、俺、こっち初めてで……」  言いながら、自分が情けなくなってくる。さっきまでノリノリだったくせに、この年で初めてに怖気づいてるとか、面倒くさすぎる。  だけど、当たり前みたいに求められて、何でもないみたいに受け止めたいけど、心が追いついていかない。大事にして欲しいってんじゃないけど、少し、待って欲しい。  この年になって『心の準備』を実感する。  いや、この年になったから『心の準備』が必要なんだろうか?  今まで俺に抱かれてくれた人は、こんなのを乗り越えてきたのか? みんな、凄すぎるだろ……。 「……初めて、なんですか……?」  恐る恐るといったように胸元の宮下に聞かれて、こくりと頷く。 「面倒くさくて、ごめん……」  申し訳なさに謝ると「ホントに?」と確認される。  ──だよな? だよなっ! 俺だってこの年でそんなんビビるなって思うけど……! 「……頼むから、ちょっとだけゆっくりして。そしたら大丈夫だから……」  大丈夫かどうかなんてわかんないけど、止めて欲しくなくてそう言った。面倒くさ過ぎる上に、情けなさ過ぎて涙が出そうだ。 「腕、離して下さい」  胸から口を外した宮下にそう言われて、イヤイヤと首を振った。  パンツの中に忍び込んでいた手をスルリと抜かれる。 「ね、お願いです……。顔、見せて……」  顔を見られるのは嫌だったけれど、優しく背中を抱き止められて、腕の力を抜く。  背中に回された手が優しい。スンと鼻をすすって少しだけ身体を離した。身体の力を抜いて床に転がり、宮下を見上げる。 「……本当に、初めてなんですね。そんなこと思ってなくて……」 「ごめん……。俺が、こっちの可能性も考えとけば良かったんだけど……」 「あぁ、そういう……。そう……ですよね、どっちが抱いてもいいんですよね。俺、そんなこと思いもしなくて……」  だよな、女としか付き合ったことないんだもんな。そう言えばそうだったと今更気付く。 「……止め、ますか?」  おず……、と聞かれて、本当は止めて欲しかったくせに思わず首を振った。 「いい……。続けていいから……。でも、ちょっとだけゆっくりして……。そしたら大丈夫だから……」  どこかで聞いたような台詞を口にする。  ──まさか、自分がこの台詞を言う日が来るとは……。 「優しく、します、できるだけ……ですけど、がんばります。……大事にしますから」  優しく目尻にキスした宮下にそう言われて、思わずぎゅっと抱き付いた。こんな、使い古されたみたいな言葉が、こんなに嬉しいなんて、安心するなんて、今までずっと、知らなかった。 「ん、頼む、な……」  俺は、今度こそ観念して、宮下に身を預けた。

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