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第22話
イってしまった……。
え、本当に!?
ちょっと待って、俺チョロすぎないか?
いや、でも……、あんな……あんなのイクなってのが無理だろ? 無理だけど……、え? そんな簡単に?
はぁはぁと荒い息をつき、背中には宮下が張り付いている。
一度達してしまえば、さっきまではあんなに興奮したのに、背中の熱も重ねられた手も何で? って言うほど普通で、この感覚の違いは何なんだって思う。
パタリとベッドの上に落とした手のひらの中に吐き出された自分の精液を確認する。温かくぬるりとしたそれに、ほんとに尻弄られてイっちゃたんたな、とか……。
それが悪いってんじゃなく、嫌とも違うけれど、とにかく驚いている。二十年以上尻はだめだと思ってきたのは何だったんだとか、そんなにあっさり覆されるものだったのかとか、むしろこれはかなり反応良い方なのでは? とか……。
無駄ってんでもないけど、知識と経験があるからこそ分かってしまう。
……これは、チョロい反応!!
初めてで、尻でイケる奴ってのは実はそんなに多くない。今の俺もだけど、チンコも一緒に触らないとイケない。むしろ尻を弄られることに慣れた所で、ほとんどチンコの刺激でイクっていう方が多いのだが、俺の反応ときたら……。
あれ、絶対に尻でイってた。
最後の、自分の声がぼんやりと耳に残っている。自分からあんな声が出るなんて、ちょっと信じられない。驚いた。
でも今の状況からしたら、嬉しい驚きだ。中には最初は全く感じられなくて、ただただ辛いだけなんてこともある。挿入する側にしたって辛いだけの相手にするより、感じてくれた方が嬉しいに決まってる。
良かった。
……良かったけど……!! とにかく驚いた。驚いている。この驚きはどこにぶつければいい!?
と、驚きに浸る間もなく、突っ込みっぱなしだった宮下の指が、そろ……と動いた。そうだ、まだ終わったわけじゃないんだと思い出す。
気持ちは『うわぁ』って感じに驚いてるのに、身体は順応早く、もう期待してる。一度の刺激でもう覚えてしまった。
「ぁ」
馴染んだ部分から指が抜かれていく、その感覚がなんだか寂しくて物干し気な声が出た。
「加藤さん、声、気持ち良さそう……」
「うん……」
良かったからな、わかるだろ? と頷いた。そういう宮下の声は、早く入れたいって興奮してる声色だ。
だよな、入れたいよな。
……それはわかるんだけど。中に気持ちいい場所がちゃんとあって気持ち良くなれることもわかったんだけど……。
いざ、宮下のソレを挿れるって考えたら怖いっていうか、なんていうか。だって、絶対に指より太かったし、指より長いし……。怖気づいている。
仕方ない。四十数年そんなの挿れようとしたことないわけで。他人に挿れたことはあるけど……、俺より宮下の方が若干立派だ。
最初に言った指三本にはなってないけど、今『いいよ』って言ったら挿れるんだろうとわかる。そういう流れだ。むしろ、この流れでやっちゃった方が良い。なんていうか、感情的に。
なんだかんだ言ってセックスは感情のもんだから、盛り上がってる時が一番いいって経験で知ってる。
……けど、怖い、っていうよりビビってる。
どんな違いがあるんだって聞かれたらうまく答えられないけど『うっわ、マジか! 俺!! やっちゃうの!?』って感じなのだ。
宮下の我慢しきれない性急な指が、弛んだ穴をもう一度探った。
「加藤さん……」
宮下が名前を呼んで顔が近付く。俺が思い切り顔を仰け反らせると、宮下が口付けてきた。がっつきたいだろうに、優しいキス。
優しさが嬉しくて、物足りなくて俺から口を開けて舌を誘い込む。
頭の芯が、ジン……と痺れた。
さっきまでの逃げたくなるような強烈な快感ではなく、ただただ蕩けるみたいな甘い快感。
鼻に抜けるような吐息があふれる。
「ん、ん……」
無理矢理な体制が苦しくて、でも、もっとしたい。重ねられた片手だけじゃなくて、もっと宮下に触れたくなる。
宮下に置いかけられる唇をぷはっと強引に離して「……やっぱ前から」とねだる。後ろからの方が楽なのは知ってるけど、前からの方が苦しいのは知ってるけど……。
「……このまま、ダメですか?」
けれど、返って来たのは切羽詰まったそんな返事で。尾てい骨にゴリと固くて熱いものを擦り付けられた。
……!? いつの間に?
ドキリと心臓がなって、動揺と一緒に宮下の熱を実感する。
「もう、このまま挿れたいんです」
って、犬みたいにねだられて、断れるはずもなく……。むしろ、なんかもう、ズクリと先に股間が反応した。
これはもう本当にほんとに、覚悟を決めるしかないって、何度目かの覚悟をして「……ゴムだけ付けて」ってお願いする。
「も、してます」
……って、いつの間に!?
案外手際良い宮下に驚いて、俺がイった後? って考えた。それがいつだって構わないんだけど、相手を冷静にする時間を与えないって中々上級だな!? って感心したりして……るうちに、ピタリと後ろにあてがわれる。
さっきまで手を握ってくれていた手は腹に回されている。
はぁ……と、宮下が大きく息をつく。
「加藤さん、挿れていい?」
何度目かの問いに、コクリと頷いて応える。
「そんなに、何度も確認しなくたって大丈夫だから……」
「だって、俺のこと受け入れてくれるの、何度だって確認したくて……」
「もう、とっくに、ぅ……」
受け入れてるっての、と言いたかったけれど、グッと挿し込まれた先端に息が詰まった。
「ぁっ」
圧迫感。けれど、案外先端の部分をするりと受け入れる。
「うっ……っ、んっ」
と思ったのは最初だけで。息を詰めて耐えようとするけど、強引に進めようとするソレにピリリと痛みが走る。
「……っ」
……受け入れる側って、こんなに大変なのかぁ……!! って今更ながら確認している。解れてなければ入れる側も大変なんだけど……、大変だよなぁ……。
息を荒くした宮下はゆるゆると小刻みに動いて侵入を試みる。多分、拒まれているみたいな圧迫感で先端が痛い程締め付けられているはずで。
ゾクゾクと身体の中を電流が走る。
正直痛いばかりなんだけど……、それでもこれで繋がれるのかと思ったらそれだけで気持ちいいの欠片が、そこかしこに転がってるみたいで。
「ぅっ、んっ」
侵入しながら小さく揺すぶられて、その振動に合わせて小さな声がもれる。苦しい声は出さないようにしようと思っていたけど、無理だった。
どう聞いても快感ではない、呻くような声。
だけど、どうか萎えないで最後までしてって祈りながら、少しずつ受け入れた。グッと押し込まれてピリと痛みが走る。
「ぅあっ……」
思わず声がもれて、でもその後は楽になった。はっはっと呼吸しながら奥までゆっくりと挿ってくる宮下を受け入れる。
「あぁっ……」
これが気持ちいいのかはわかんないけど、挿し込まれる熱さに声が出る。内臓がぎゅうぎゅうと押し込まれるみたいで、身体の中がいっぱいになった。
初めての感覚にゾワゾワとしたものが身体中を駆け巡る。
尻は楽になったけど、時折ピリと痛みは走るし、とにかく宮下の入ってくる部分が焼けるように熱くて……。
「ぁっ」
なんだか、限界突破。もう無理っていうまでいっぱいになる。
それなのに身体の中の一部分が、さっき知ったばかりの新しい快感を求めていた。
はぁ……と大きく息をついた宮下が、背中から覆い被さる。
「……はいった……」
小さく呟いた声に「ごくろーさん」と声をかけた。
「……ご苦労さん、て……。痛くないですか?」
「少し? けど、だいじょーぶ……」
「きもちいい?」
ゆすっ、とゆるく腰を揺すった宮下が聞く。
「んっ……、熱い」
気持ちいいか分からなくて、感じたままを答える。
「加藤さんの中もすごい熱い……」
きもちいい、と耳に直接囁かれる。セリフに合わせてピクリと性器が動いて「あ」と声が出る。
「そんな声、聞いてたらたまんないです……。動いていい?」
そんなこと、聞かれてもわかんないんだけど……。わかんないんだけど、もっと宮下に気持ち良くなって欲しくて頷いた。
「ゆっくり……、ゆっくりして」
「はい」
真摯に宮下が応えてゆる、と動き出した。
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