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第31話

 そんなことを言っても今日は週末。恋人と一緒に鍋なんてつついているこの状況は立派なお家デートというやつで、しっかりヤル気は充分だ。  鍋のほとんどを食べ終わって、缶ビールとチューハイでだらだらと晩酌を楽しんでいる。  テレビのバラエティ番組を流しっぱなしにして、スマホのゲーム画面を開いている。 「二人でいるのにゲームなんてしなくても……」と旦那の愚痴を言う女性社員には同意派だったのに、宮下と一緒にゲームをするようになったらあっさりハマってしまった。  今までは空いた時間に少しするものだったのに、今ではある程度ゲームの時間に合わせてしまう。何と言っても、ゲームを効率的に進めるためにはスケジュールの管理が必要で、**コラボクエスト九時スタートと言われたら、その時間にやっていないとキャラが手に入らない。  ……というのは、宮下の受け売りではあるんだけど、宮下が言う通りにゲームを進めたらレベルの上がるのも早いし、勝てるようになるし、それに一緒に居られない平日の夜でも、ゲームの中では一緒に居るのが楽しかったり。  それに案外古い漫画とのコラボもあって、昔夢中になったキャラが出たりするとそれだけで何だかワクワクするのも事実だ。 「なぁ、今日のクエスト何時からだった?」  ほろ酔いで気分良くなって、こつの中で宮下の足をつついて聞いた。 「今日は、やんなくてもいいかな。……っていうか、出来ないかな」 「何で? 宮下の得意なのじゃなかった」 「まぁ、そう言えばそうなんですけど、加藤さんがこういう事してくるじゃないですか。そしたら俺もやり返さなきゃいけないんで……」  そう言って、こたつの中の足を絡めてくる。  温まった足がつ……と脛の辺りをなぞり、そのくすぐったさに足を引いた拍子に、ガタっとこたつが揺れて慌てた。 「こら、もう……。危ないだろ」 「すみません、でも、加藤さんが逃げるからですよ」 「くすぐって来るからだろ」 「だって、スマホ見てるし……。俺のこともかまってくださいよ」 「……今ちょっと見ただけだし、宮下だっていつも見てるだろ」 「でも、今見てないですよ」 「今見てないだけだろ、さっきやってたくせに……」  そう言いながらもこたつの上からこぼれる物だけよせて、おいでと手招きする宮下の元に行く。 「はい、ここどうぞ」  空けられたのは宮下の横。広いこたつならともかく、違うんだから男二人で並ぶのはいくらなんでも狭すぎる。俺の表情に出たのか「だったらこっち」と、宮下の前の布団をめくられる。  きっと、ここには来ないと思ってるんだろうけど。そう思われるとやりたくなるんだよな。  こたつと宮下の隙間、めくられた布団の中に身体を捩じ込んだ。そうは言っても、俺の体重を宮下の足の上に載せるのはさすがに可哀想で、開いた足の間に座る。当然足は左右に広げられて、身体は後ろに押し退けられ、かろうじてこたつの中に残ったのは足の先だけ。  俺からしたら座椅子に座ってこたつに入ったみたいで調子いい。ドスンし背もたれにもたれかかる。 「おもっ……」 「だろう? これ、調子いいなぁ。背もたれあるって最高」 「じゃあ、もっと最高にしますね。座椅子はマッサージ機能つきでーす」  俺の悪ふざけに宮下も乗ってきて、背中をぐいと押された。 「もっとこたつにうつぶせるみたいになってください」 「こうか?」 「そうですね。お客さん、どこか凝ってますか?」 「マッサージ機じゃねーのかよ」 「そうでしたね。じゃあ対話型AI機能付きマッサージ機です」 「最新型だな」  くすくすと笑いながら宮下の手が背中を押しながらたどっていく。 「背中から腰が凝ってるみたいですね」 「そうだな、誰かが頑張ってくれるからなぁ……」 「……すみません。でも、俺だけじゃないでしょ?」  そう突っ込まれて赤くなる。確かに、最近は慣れてきてもっとって思ったりもするけれど。自分はバレていないつもりでも、案外腰が揺れたり欲しがったりする仕草は見ていてわかる。感じてくれるのが嬉しくて分かりにくい小さな動きでも見逃したくないのだ。  そんな仕草に気付いた日には嬉しくて鼻歌でも唄いたい気分だったけど、自分のそんな所を見られていると思うといたたまれない。 「一昨日、仕事で重い荷物も運んだしなぁ」  ついつい、仕事のせいにして誤魔化してしまう。……そなところも見透かされてらやではないかって気はするけど。 「あぁ、どこかの現場で資材足りなかったってやつですか。ちょっと揉みましょうか? 痛くないですか?」 「ん……、大丈夫」  言いながら宮下はトントントンとリズミカルに優しく腰を叩く。その痛さギリギリの心地良さに思わずため息が出る。 「痛い時は言ってくださいね」 「大丈夫……。宮下は今の仕事やめたらマッサージ師になれるな」 「えぇ? ゴッドフィンガーなんて言われますかね」 「言われるかもなぁ……、ぅっ」 「痛かったですか、これくらいなら平気ですか?」 「あぁ、うん、大丈夫」  会話をしながら背中を叩いて揉んで解していく。マッサージ師なんて本気で言っているわけじゃないけど、おばあちゃんにしてあげて鍛えたという宮下のマッサージは本当に気持ちいい。痛いときもちいいのギリギリをつかれて、お腹はいっぱい、手足はこたつでぬくぬくとぬくもった上に、ほんの少しの酔いも手伝って眠くなってくる。 「加藤さん、寝ないで下さいね」  そんな宮下の忠告に「おぅー」と返しながら、うとうとしてくる。 「寝ちゃうんですか?」 「んー……、寝ない、だいじょーぶ」 「そうですか? 寝ててもいいですよ。その間に特別マッサージコースはいりまーす」  宮下はふざけた様子で腕を俺の腹に回した。そのままするっと手が動いて服の中に手が忍び込む。 「あっ、こらっ」 「特別マッサージですから。直接触りますよ~」 「だめっ! くすぐったいって!!」 「お客さん、逃げないで下さいね。ちゃんとマッサージできないので」 「ひぃ~! そこ、揉むなっっ。腹弱いんだって」 「ですよね、知ってます。だから……、こうです!」 「ぉっっっわ!! やめろっ! ぎゃ~、むりっ! むりっ!」  ぎゅっと後ろから抱き込まれて、こしょこしょと脇腹をくすぐられる。くすぐりには元々弱いけれど、ガッシリと脇腹を掴まれてくすぐられることなんてないから、その衝撃の強さに驚いてジタバタする。  脇腹くすぐられるってこんなんだったっけ!? そりゃ子どもも逃げるわ……。  逃げ出したくて暴れるけれど、後ろから抑え込まれるみたいにこたつに押し付けられてるせいで、全然逃げられない。これ、反則だろ……!! 「ちょっ、まって、ほんと……頼むから」  ひぃひいと叫んで暴れて頼むと「仕方ないですね」と腕の力が弱まった。こたつにつっぷして荒くなった息を整える。  起き上がりたいけれど、宮下は俺の身体をこたつに押し付けたままで、腹を撫でる手がそわ、とくすぐるのと違う動きをはじめた。 「な……に?」 「何でしょう?」 「手、抜けってば」 「え~、無理ですよ。まだ特別マッサージコース継続中です」 「まだやってんのかよっ……。っ!!」  ズボンの中に手を差し込まれて、毛の生え際をなぞられた。くすぐったいのとは違うゾワ……とした感覚が背筋を駆け上がる。  ここ数ヶ月ですっかり馴染みとなったその感覚に流されたくなる。  ふいに黙った俺に、宮下がクスリと笑って、肩口に顔が埋められた。 「こっちも、マッサージします?」  低い声で囁かれて、ズクと身体は了承の合図を送る。けれど理性が「まって」とタイムを要求した。 「風呂、入ってから……」 「加藤さん、ビール飲んだばかりでしょ。後で一緒に入りましょう」 「大丈夫だよ」  押し切ろうとする宮下に食い下がる。だって、今日まだ下の毛の確認してないんだって! 白髪が……!! 「だぁめ。……分かるでしょ? 俺もう待てません」  腰にぐりと昂ぶりを押し付けられて走ったゾクゾクした感覚に、俺は諦めて白旗を上げた。

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