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第33話

「あっつい……」  あまりの暑さに上半身を反らして横抱きになっていた身体を、こたつの中から引き抜いた。さっきまでぬくもりを求めていたのが嘘みたいに、今は熱くてくらくらしている。  けれど宮下は抱きしめる腕は解いてくれず、座った宮下の上で赤ちゃんみたいに抱っこされる。  実際に見たら、はみ出す大きさの赤ちゃんにきっと笑っちゃうんだろうけど、なんだか不思議な安心感があって、手を伸ばして首っ玉に抱き付いてキスをした。  ──すっかり甘えるのに慣れちゃったな。  背中を撫でる手に甘やかされながら舌を吸われてそう思う。本当に、最初は違和感ばかりだったのが嘘みたいに、甘やかされるのが気持ちいい。 『……いや、おっさんが甘やかされて気持ちいいってマズイだろ』って理性は言っている。けど『おっさんて甘やかされたい生き物なんだな』なんて開き直りの気持ちの方が大きい。  世の中の人がどうだかは知らないけれど、自分が甘やされた記憶って、最後はいつだろう。両親と、祖父母と……、それから恋人くらいか?  けれど、以前の恋人にはあまり甘えた記憶がない。自分がタチだったせいもあけれど、素直に甘えるのが恥ずかしくて、恋人が俺に求めるみたいに甘えることは出来なくて。『甘やかす』こと自体が『甘える』のと同意義だった気がする。  何となく、アイツとダメになったのはそういう所が原因だったのかな、と最近思うようになった。アイツも甘やかしたかったのかな、とか。俺は対等なつもりでいたけれど、そうじゃなかったのかな、とか。  今は反省を生かして、その分も甘やかされているというか、ちゃんと甘やかしてもいるけれど。  甘やかされるってこんなに気持ちを解くものなんだな、っていう発見。  考えてみれば、子どもを抱きしめてあげましょうとか、甘やかしてあげましょうとか言うんだから、その効果は誰だって認めている。抱き締められて甘やかされて、全部を委ねられる。それとも、全部を委ねるから甘えられるんだろうか? ……どっちでもいいんだけど。  求めて、応えてもらえるのは嬉しい。求めてもいいことが嬉しい。宮下も同じように感じてくれるといいのだけど。  軽く痺れる舌を離すと唾液が糸を引いた。唇を離して感じる外気温にぞくぞくする。  中途半端に乳首をいじっていたおかげで、露わになっているぽよりとした自分の腹と、手を突っ込まれて中途半端に下ろしたスゥエット。急にそれが気になった。  首に回した片手を離して服を戻そうとすると「ダメです」と止められる。  室内の明かりは煌々としていて、身体の全てを暴力的に暴いている。  いや、見られるのは本当に無理だ……。冷静に身体を見られることへの羞恥。これも、抱かれる側になってやたらと意識することの一つだったりする。  自分のコンプレックス(特に、今はぽよぽよの腹と陰毛の白髪なんだけど)を全部さらして、その上そこを愛撫なんてされた日には、本当恥ずかしくて爆死って感じだ。何が楽しくてぽよぽよの腹を撫でられて摘ままれたいんだよ!?……って、それを育てたのは間違いなく俺なんだけど。  そのままズボンを下ろそうとする宮下の手を制して止める。  ……待って、それは、本当に待ってくれ!!  心の中で叫んで、宮下の手と攻防する。 「……なんで邪魔するんですか? いや?」  ここまでやっといて?と言外に言われたようで、違うんだけど……と冷や汗をかく。 「嫌じゃないけど……、ほら、あれだ、何度もイくと辛いから……」 「だったらちょっとだけ」 「いやっ、今日は俺がするから」 「どっちにしても慣らさないといけないし」 「そうだ、けど」 「……加藤さん、何か、隠してます?」 「いや……? えっと、じゃあ電気消して……」  ~~……!! って、俺、嘘下手すぎだろ!  自分で、自分の誤魔化し方のあまりのひどさに眩暈がしそうだ。 「でも今日は、このまましたいなぁって、思うんですけど?」 「このまま?」と反復するとコクリと頷いた。  ……そこ、拘る!? どうする、俺! 「加藤さん」  宮下は甘えた声で名前を呼んで、ちゅっ、ちゅっとキス攻撃を仕掛けてくる。こいつ、絶対このまま押し切る気だ。ついでに太もも横の宮下くんは臨戦態勢で待機している。  そして臨戦態勢の宮下くんを見せつけるみたいにこすりつけて来た。  ……わかってる。勝てる気がしない。ついに俺が観念する。 「うしろ……、後ろからなら、いい」  言った瞬間、ぱぁと花が咲いたみたいだった。『え、そんなにしたかったの?』っていう、満面の笑み。でもこうやって俺の一言ひとことに反応されてしまうと、悪い気はしないというか、その顔が見たくて言うことを聞いてしまう。まるで、わがままな犬を飼っている飼い主みたいだ。

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