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第34話

「さっきみたいに、ここ来てください」  真ん中に座るように促されて、その通りにすると後ろから首筋にキスして抱き締めてくる。長い腕が身体にまわされてぎゅうと締め付けてから、中途半端にできた腹の服の隙間から手を差し入れる。 「ぅ……」  くすぐったさに息をつめて身を引くと、宮下の身体に身体をこすりつけるようになる。 「そのまんま、手付いて……」  四つん這いの代わりに、うつぶせてこたつにもたれかかる。突き出した腰を抱えられて、尻だけを突き出す体勢にくらくらした。  自分で言ったんだけど、初めてでもないんだけど、この自分を差し出すみたいな恰好で待つ、この時間が本当に苦手だ。恥ずかしさと期待と、ないまぜになって叫びだしたくなる。そもそも『待つ』っていうのが苦手なんだ。  だけどここで積極的になるって、されたらすごく嬉しいのはわかるけど、する方って勇気がいる。まぁ、あと、俺がこういう時に待たれているのが好きって言うのもある。待つのは苦手だけれど、待たれるのは好きなんだ。  腹に回った腕が下向きになってぽよっと垂れたぜい肉をむにゅっと撫でる。びくりと反応した俺に気を良くして、更に肉を掴まれる。 「宮下、それやめろって……」 「えー……気持ち良いのに」 「摘まむのがだろっ」 「そうですよ、むにゅむにゅしてて触り心地最高」 「揉むな、揉むな! ……って、それ、くすぐったいから」 「それ? これ? どれ?」  宮下は腹の肉を摘まんでこねくって、くすぐって遊ぶ。ひーっとくすぐったさに笑いながら逃げ出したいんだけど、この体勢は不利すぎた。 「あっ、ばか! ひっ…やめろって」 「加藤さん、ほんとに感度がいいんですよね~」  言いながらするすると腹を撫でられてくすぐったさだけじゃない感覚に、ぴくりと腹筋が反応して「はっ」と息を吐く。 「くすぐったいだけですか?」  耳元で囁かれた吐息にゾワゾワした。 「んっ……、くすぐったい」 「だけじゃ、ないですよね……?」 「耳元でしゃべんなって…、ゾワゾワすんだよ」 「ぞわぞわって、こういうの?」  ほとんど耳を舐められるみたいにして喋られると、耳の中で宮下の低い声とくちゅという水音がいて、頭の中をこだまする。 「ぁ…」 「すぐにそういう反応すんの、ほんと可愛い」 「ばか…」  ため息交じりに言われて、かっと頬が熱くなる。 「俺、恥ずかしがってる加藤さん見るの、大好きなんですよね」 「何言って……ぁっ」 「ほら、恥ずかしがってるのに、その反応、すっごい可愛い……」  言いながら後ろを探られてゾクゾクと期待が背筋を走る。さっきから間を開けてあっちこっち愛撫を繰り返されていて、少しのことでも過剰に反応してしまう自覚はあった。  あったけれど、こんなん自分じゃ制御でない。 「ちょっと待っててくださいね」  そう言って少し身体を離し、宮下がローションの容器をパチリと開ける音がした。  ……一体、いつの間にそんな所にローションなんて容易してたんだ? 準備がいいっていうか、手際がいいっていうか。感心するのと一緒にちょっと呆れる。  呆れるんだけど、それより期待の方が大きい。早く触って欲しくて、ローションを温めるにちゃという音を聞く。  そうしているうちに再び後ろに手が触れて、今度はぬるという感触と共に、するりと指が後孔に忍び込んだ。抵抗なく飲み込まれた指を何度か抜き挿しして、そのままぐるりと穴の入り口を内側からなぞって拡げていく。  何度もされて慣れてしまったその行為を「ふっ…」と息を吐いて耐える。……いや、耐えるっていうのも変かも知れない。そのぐりぐりと拡げてなぞられる感触は単純に拡げる準備というよりもほとんど愛撫で……。抵抗する筋肉が弛んでいくそれに、俺はあられもない声を上げてしまう。  我慢したくて我慢しきれなかった「はっ、あ、ぁ」という声を聞きながら、宮下が丹念に襞を拡げて準備を進める。差し込まれた指はいつの間にか二本に増えていて、準備というには良い所を探ってくる動きに、俺はこたつの天板を引っ掻いた。 「ばか宮下、それ、やだってば……」  前立腺を掠めるその動きに抗議する。 「ん、……何が嫌なんですか? これ?」  聞きながら更に指の本数が増やされる。ぐちゃぐちゃと動き回る指の動きに合わせて、声が途切れる。 「……そんなに、やんなくても、大丈夫、だって」 「でも加藤さん、これ、きもちいいでしょ?」 「あっ……!」  ぐちゅん、と指全部を押し付けられて、頭の中がちかちかする。ぐっと手のひらを握って身体が跳ねる程の快感に耐える。  勃ち上がっていた俺自身が、たら…、と涎を垂らしたのがわかった。 「加藤さん……」  耐える俺に気を良くした宮下が名前を呼んで、快感のダメ押しにそのまま指を抜き挿しする。 「ぁ、ぁ、あ、」  止められない声があふれて、俺がすがり付いているこたつがガタガタと揺れる。  すげえきもちいいけど……っ、これ、絶対後でダメんなるっ……。  正直、体力に差があって付いて行くのに必死なのに、俺だけ何回もイかされるとか、絶対に無理なんだって。  ……いや、正確には何回もイけないわけなんだけども。それが嫌なんだよな。『辛いならもう止めましょうか』ってヘバってる俺に合わせて止めたりして、それじゃ満足できないだろ?   自分だけが気持ち良くなるより、やるなら一緒にイキたい。  でも、一緒にイこうって言うのはとんでもなく恥ずかしくて、ぐちゃぐちゃになってる時ならともかく、理性が少しでも残ってると言いにくい。 「み、やし、た、なっぁ、も、いれろっ、てばっ」  わざと直接煽る言葉を選んで言う。  途切れとぎれになる言葉は聞きずらくて、それでも何とか通じたのか「入れて欲しいんですか?」と宮下に聞かれてこくこくと頷いた。  なんだか、直接的な欲望の言葉を口にする方が恥ずかしくないってのも変な感じだ。  それでも宮下はその気になってくれたらしく、ぬるりと指を引き抜いて、その感触に「ぅん……」と息を詰める。自分で頼んだとはいえ、突然空白になった後孔が寂しくて、すぐに熱いもので満たされたくなる。  ひくひくとそこがひくつくのを感じながら、そのまま宮下を待った。  ピリというコンドームの袋が破ける音ももどかしくて、こたつの天板に身を擦り付ける。もう、どこでもいいから刺激が欲しい。  大きな手が腰に触れて、上ずっていく身体を下に抑えつける。 「加藤さん、こっち、逃げないで」 「逃げてるわけじゃ……」 「じゃ、もっとお尻こっちにください」  ぐい、と身体を引かれると、股の間に準備万端になった宮下の性器がぬるりと触れた。 「……っ」  それだけで、ぴくりと身体の中の何かが反応して、じくじくと快感が湧き上がる。触れるだけで、動かないそれに焦れて自然と腰が揺れる。  待つだけの、どうにもならないこの時間が嫌だった。はやく、何とかして欲しい。 「ぅう……。宮下、はやく……」  急かすのに、宮下はぬるぬると太ももをぬるりと滑らせる感触だけを楽しんでいる。  焦れてたまらなくて、震える手を後ろ手に回して、宮下の性器を握る。 「焦らすなよ。お前、もう、長い……、早くしてってっ……」  言いながら、固定した宮下の性器をあてがう。 「自分で、入れちゃうの?」 「だって、みやした、が、おそい、から……」  ぐっ、と身体を押し付けて、宮下の性器を押し込んだ。「あ」と声が漏れる。宮下は、自分は動かずに、ただ手で腰を支えているだけだ。 「のみこんじゃいますよ」  はぁ、と色っぽいため息と一緒に言われて、その音だけでぞくぞくとかいかんが走った。 「ん……、みやした、が、うごかない、から……」  ゆっくりと抜き挿しを繰り返しながら、奥まで押し込んでいく。その圧迫感と、そこから来る快感に息が跳ねる。  半分まで押し込んだところで、性器を支えていた手を離して、もういちどこたつの上に腕をついた。崩れたくなる身体を励まして、一番深い場所までゆっくりと宮下を含んでいく。  自分で飲み込んでいく宮下の性器は、妙にリアルで頭の中でその形と飲み込まれていく姿まで思い描けそうだった。  最後にぐっと押し込んで身体を押し付ける。思わず「あっ」と高い声を上がり、身体ががくがくと震えた。 「ん……、ぜんぶ、はいった?」  俺の中いっぱいの宮下を感じながら、震える声で聞いた。 「加藤さん、さいこー、可愛い。……けど、あと、もう少し、頑張ってください、ね」  言葉と一緒に、ぐいっと腰を引かれる。最後、だと思っていたのにもっと深い場所まで挿し込まれて、小さく叫んだ。

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