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第36話
ゆっくり、ゆっくり溶かされてゆく。
湖にたった波みたいに、緩やかに引いて押してを繰り返された。強引に高みに昇らされる力強さの代わりに、柔らかに抱き締めるみたいな快感に包まれる。
いつもの強引に暴かれるような快感が欲しくて身体は焦れるのに、そのゆっくりと穏やかな快感に徐々に溺れていく。ぎゅっと抱きしめられて、幸せに身体が痺れるみたいな、そんな快感。
身体の中の一番敏感な部分を、宮下が暴くんじゃなくて、俺から暴かれにいくみたいな。その扉を、自分から開けにいくみたいな。
ゆるやかな動きに合わせて、胎の中が勝手に動く。押し込まれると、離したくないと絡み付く。
だんだんと視界が明るくなるような気がする。頭の中がぼやけて、キラキラとした光を感じるようになる。
ぎゅっと掴まれて、それから解放された時みたいに、ぼわんと身体の中を血が巡るのを感じて、それから、一気に快感の海に放り出される。
あ、と叫びたくて口を開くけれど、声も出ない。
それは、経験したことないすごい快感だった。
ぎゅっと身体が縮こまって、大きく、ビクリ、ビクリ、と身体が震えた。
身体はそんなに感じているのに、頭の中は、ぼんやりと真っ白い空間に投げ出されたみたいで、ほわほわと飛んでいるようだ。
突然の激しい反応に、宮下が「加藤さん?」と名前を呼ぶ。その声をどうでもいいと思いながら、もっと呼んで、と思う。その音が頭の中でふんわりと響く。
締め付けられた宮下の性器が俺の中で大きく膨らんで、それだけで再びビクリビクリと身体が跳ねる。う、と呻いた宮下が、背中から体を抱きしめて、またビクリと身体が跳ねた。
ビクビクと跳ねる身体を宮下が抱き締める。嵐みたいな快感が過ぎると密着した背中の熱さだとか、湿った手の感触だとかが次々と襲ってきて、またぼんやりとした快感に堕ちていく。
「加藤さん、落ち着いた?」
囁かれてその音にゾクゾクとまた快感が走る。
身体の中を駆け巡る快感に締め上げられて、宮下がピクリと震えてぎゅっと強く抱いた。
「……あ、」
掠れた声が出ると、思い出したみたいに息を吸った。
また身体をふるわせて、ゾワリゾワリとうごめく快感に身を任せる。
抱きしめられているだけなのに、頂点はここっていう『イク』感覚があった。
「ぁーー……っ」
言葉にならない叫びみたいな、そんな音が出る。どこか遠くで響くみたいなその音を、他人ごとみたいに聞いた。
「加藤さん、……ずっとイってる」
切羽詰まったみたいな、宮下の声。それから、締め付けている性器を無理矢理引き抜かれて、強引に押し込まれる。
パチと肉の当たる音と、ぐちゅと内臓に響く音、それから自分の声。
「ぁ、あっ、はっ、ん、」
宮下のリズムに合わせて、声がもれる。宮下は再び身体を離して背中と腰を掴んで夢中で俺を追い上げる。
全部の力が抜けて、ただこたつの上にダラリと身体をあずけた。
──もう、だめだ……。
何が、かはわからないけどそう思う。揺さぶられるだけになった身体は、自分のものじゃないようで、あふれる声だって、自分じゃないような甘えた喘ぎ声になっている。
いや、知らなかったな、ホントに。俺って「あんっ」なんて、そんな声出るんだな。
意識と身体が別になったみたいな、不思議な感じ。だけど気持ち良さはちゃんと繋がっている。けどいつもと何かが違う、心地よさと心許なさ。
ゆらゆらと揺すられて、下半身に覚えのある感覚が集まる。射精じゃない、それ。
「ぅ……、ちょ、と、だめ……」
さすがにまずいと訴える。
「ん……?」
けれど、ぐったりと気持ち良さに身体を預けたままの俺の言うことに、宮下は全く取り合ってくれない。
まずい、んだけど……。
「だっめ、だから……だめ」
「だめ? どれがだめですか?」
当然のように、ただの睦言だと思われてぐいぐいと腰を押し付ける。
「も、でる、でちゃう……から、それ、やめてぇっ」
「それって?」
「うー……、だめ、だってば……」
ぐらぐらの頭では説明することが出来なくて、だめ、だけを繰り返した。
「またイっちゃう? いいですよ、イって」
「じゃ、なくてぇ…」
出るのは精液じゃなくて、ぎゅんと集まる感覚は、おしっこのそれで。
「俺も、も、イキそうです」
いや、宮下はいいよ! けど、俺が出そうなのはそれじゃなくて……!
精一杯、我慢する。だけどそれは無駄なあがきでしか無くて。ちょん、ちょんと押され続けていた身体の中のスイッチが、カチリと押された。
あ、と思った時には、もう、我慢なんて出来ない。ズン、と押し込まれ、引き抜かれた瞬間解放された、それ。
「あー……」
せき止めていたそれが、プシャ、と小さな水音をたてて解放される。後ろから抱かれているおかげで、最初のそれは気付かれなかった。
「だめ、でてるっ……、だめっ、だめ……」
また深くまで押し込んで引き抜く。その度に少しずつピュ、と透明の水が噴き出した。うわ言のように繰り返す言葉は、快感の言葉としか捉えられていなくて。……まぁ、確かにすごい快感なんだけど、まったく制御できないそれに翻弄される。
「ぅ、ぅ、だめってぇー……」
くっと宮下の距離が近くなり、片手が股間に回される。力が抜け始めた性器をためらい無く握られた。触られていないのに敏感になりきった性器が、宮下の手に震えた。
「……ん?」
性器を包んだ手が、すると擦り上げて先端を包み込む。そのまま後ろから胎の中を突かれると、再び、ぴゅと身体中に残っていた水分が吐き出される。
そうしてしまえば、誤魔化すことなんてとてもじゃないけど出来なくて。
「さらさら……、っていうか、きゅっとしてる? ……精液じゃない、ですよね」
手の中に吐き出されたものを宮下が確認する。背中の上で手のひらを開かれて、ポタリと生ぬるい液体が背中に垂れた。
「だっ…からぁ、でるって……」
「おもらし?」
「……っ、ちがうっ……、ん、」
「でも、おしっこみたいですよ」
宮下の手が再び性器に回されて、それを握る。
「ぁっ」
「ほら、これ」
そう言いながら、宮下は俺の胎の中を掻きまわした。そうすると一度は止まったのに、またすぐにピシャと宮下の手にあたたかな水が吐き出される。
「また、でましたよ?」
「おしっこじゃなくて、それ、……」
それは潮だと言いたくて、いやでもそれってエロ過ぎるだろ……と思わず口を噤んだ。
「……おしっこじゃないなら、潮、とか?」
「知っ、てんな、ら、言う、なよっ」
「ほんとに?」
それを確認するみたいに、宮下はまた中を突いて吐き出させる。行き過ぎた快感は、もう気持ちいいというより苦しくて──。
「う、ぁ、も、無理だってっ」
「だって、宮下さん、すっげぇエッチ……。潮、とか動画の中だけかと思ってた」
「ばっ…か、んな、わけ……、あっ」
興奮した宮下にぐちゃぐちゃと掻きまわされて、すぐに頭が真っ白になった。苦しくて嫌なのに、もっともっと、って身体が求めていた。力のはいらない指で天板を掴もうとして、でも、ただ縋り付いた。くずれるだけの下半身を、宮下の手が引き寄せる。
「っぁ、あ、あ、」
制御できない声だけがあふれる。
「もう、宮下さん、もうイクっ」
「ぁあぁ……っ」
腰を抱かれて、体がヒクリと震えた。胎の中で跳ねながら熱を吐き出して、力を失っていく宮下を感じる。
もう、動く力も残っていない。
そのままこたつに身体を預けて息を整えた。足の、太ももの下がベチャリと冷たい。
──あー……、こたつの布団、汚しちゃったな……。俺ん家ので良かった……。
ぼんやりする頭の中でそんなことを思った。
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