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第37話
まぁ多少なら、放置してイチャイチャするんだけど。
自宅じゃなくてホテルなら、ほっといてもいいんだけど。
さすがにその場所にひっくり返るわけにもいかず、ずるずると身体をひきずり上げる。ペタリと座って、あーあ、と惨状を眺めた。
良かった、後背位で。こたつの上掛けに広がる子どものおもらしみたいな染み。これ起き上がってたら大惨事だったなー……。
潮吹き自体を見るのは初めてではないんだけど、自分でそうなるのは初めてだった。……とりあえずこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいな!? どうやってもおもらししたみたいな気がして仕方がない。
というか……それ、の快感が本当に、おもらしみたいな……。我慢して、我慢して、出るって感じとかがなんか本当に。なんて、ボケっと眺める。
恥ずかしくて隠したいって気持ちはあるんだけど、まだ頭がぼわぼわして、腕の一本も言う通りにならない。このまんまフラリと後ろに倒れて寝てしまいたい、満足感。
……満足感て認めざるを得ないくらい、ほんとに、すごかった。なんだったんだあれ?
「加藤さん、ねむい?」
後ろであれこれと処理していた宮下が話しかける。
「ん……だいじょーぶ……」
「いや、絶対に眠いし。頭ぐるんぐるんしてますよ。ベッド、行きましょうか」
「でも……」
「片付けなら、全部やっときますから。ほら」
そう言われて、とりあえず立ち上がろうとしたけれど、足元がぐらりと揺れて、慌てて宮下が支えてくれる。
「抱き上げられればいいんすけどねぇ……。ほら、ちゃんとして」
手を引き脇を支えてくれる宮下の手が、この期に及んでくすぐったくて身を捩る。
「……まだ感じてるんですか? 加藤さんエッチだなぁ」
「違うし、くすぐったくて」
「くすぐったいのが気持ちいいって、知ってますよ。はいどうぞ」
ほんの二、三歩の距離を支えられて移動して、ベッドの上に座り込む。
「誰のせいで……」
すっかり暴かれているのが恥ずかしくて、減らず口をたたくけれど「俺のせいですよね」と嬉しそうに言われてしまう。
「そうだよ、宮下のせいだ……」
おもらしみたいな染みとか、立上がることも満足にできないとか、だけどそれを嬉しそうに「自分のせい」って言う宮下とか、……全部が恥ずかしくて、ベッドに転がってまくらに顔を伏せる。
さっきまでより、もっと恥ずかしくて仕方がない。『俺のせい』って言われるのが嬉しいだとか。
ふわりと背中に手が触れて、むき出しの尻にちゅ、とキスされる。
「あ、こらっ」
「恥ずかしがってる加藤さんて、本当カワイイですよね。ちょっと待ってて下さいね」
そう言って宮下が上の服はそのまま、下にはパンツだけの姿で今散らかしたこたつ周りをまとめて片付けていく。
「……これ、上掛けどうします? 乾かしただけじゃダメ?」
「だろうな。使うなら洗わないと。つっても、でかくて洗濯機使えないし、捨てる……?」
「えー、もったいないですよ。明日、コインランドリー行きましょうか」
「コインランドリーって、布団も洗えるの?」
「多分? 家のそうやって洗っていたような……」
「へぇ、便利なんだな。なんか昔はクリーニング屋だか布団屋が家に来てさ、頼んでたな」
「家に来るんですか?」
「訪問販売みたいなやつな。いつの間にか見なくなったけど……」
「へぇ。訪問販売て、家に直接来るんですよね。太陽光発電とケーキ屋くらいしか見たことないです」
「マジか……、俺、それはどっちも会った事ない。太陽光はじまった頃は実家出てたし。……ケーキ屋?」
「ちっちゃいリヤカーみたいなの押して……、あ、アイスキャンディー屋みたいなやつ。あれで歩いてるんですよ」
「へぇ……。時代だなー……」
うっそりとこんなことでも年の差を感じる。生きている時代の違い、当たり前の違い。
そっかぁ、と関心する俺をよそに、宮下はざっと食事の名残をキッチンに運んで、こたつの上掛けも剥いで丸めている。
「適当でいいぞ。明日やればいいし」
「適当ですよ。はい、おしまい」
冷蔵庫からお茶のペットボトルをとりだし、ゴクゴクと飲んでから「飲みますか?」とベッドの上の俺にまで届けてくれる。
同じペットボトルを当たり前みたいに回し飲みする。ふと、そういえば宮下はカルピスサワーばかり頼んでたな、と思い出した。俺がカルピス好きだと思い込んで、俺が『一口ちょうだい』って言うのを待って、ただそれだけのために。
あの頃の宮下が、今の姿見たらぶっ飛ぶだろうな。まぁ、すっかりあれもこれも慣れちゃって、せっせと俺の世話をやいて。
まずいな、と頭の中のどこかで思いはするけれど、尽くされるのは気持ちいい。俺も世話をやくのは好きだと思ってたんだけど、今じゃご覧の通りにぐずぐずに甘やかされている。
……そもそも、ネコするなんて思ってなかったしな。
想定外のことばかりだ。
俺からお茶を受け取った宮下が、ペットボトルにふたをして、それをベッドサイドに立てる。そのまま屈み込んで、お茶で潤した唇にキスをした。
頭はハッキリしてきたと思うのに、身体の奥にさっきまでの余韻が残っていて、ジン……と身体の奥が痺れる。
……ほんとにもう、俺もすっかり慣らされちゃって……。
すぐに離れて隣にもぐり込む宮下に、もう一度、とキスをねだる。
ちょっと驚いた顔をして、それからふ、と笑って、何度もちゅっ、ちゅ、と軽いキスを押とす。ゆっくりとぞわぞわとした気持ち良さが身体を支配する。それと一緒に、満たされた幸せも。
なんだか笑いが込み上げてきて、ふ、と笑った。けれど、それはすぐに「ぁ」と密やかな声に変わる。ゆるやかな快感に、捕まえた唇に舌を差し込んだ。
一度達した身体はあっと言う間にガクガクと震えて、舌を絡められただけでたやすく小さな頂点をみる。性器が勃ち上がることもない、おだやかな快感。頭の中がふわりと軽くなって、あっと言う間に眠気が襲ってくる。
宮下の唇はうっとりと目を閉じた俺の唇を過ぎて、耳を辿り、首筋に進んで鎖骨を舐める。くすぐったさに身をよじるけれど、それより気持ち良くてそのままにする。
身体の全部が敏感なのに、全部が夢の中みたいな、ぬるい心地よさ。
宮下の舌が、乳首に辿りつきペロリと舐める。その瞬間だけ身を震わせると、先端にちゅうと吸い付かれる。
「ん……」
俺の口からもれるのはもう、ほぼ寝息みたいなそれ。
「も、無理……」
「うん。わかってます。寝てていいですから」
「んぅ……」
「こうしてるだけ。気持ちいいでしょ?」
なんでそんなん分かるんだよ? 確かに、気持ちいいんだけど……。
宮下は赤ちゃんみたいに、俺の小さな乳首に吸い付いている。それがなんとも言えない心地よさで安心するってこと知っているけど。吸われてる方も、慣れてしまえばただゆったりと気持ち良くて……。
俺はとろりとした快感に、あっけなく眠りに落ちていった。
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