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第44話
しかし、そんなことを言っても怖いものは怖いわけで。サク、サクと毛が切られていく音にビクビクする。俺の身体が思わず震えると、時折宮下から笑いの雰囲気が伝わってくる。
たらんと垂れて縮こまったままの性器を持ち上げられて、その周りも少しずつ切り込んでいく。
「案外、毛って生えてるもんなんですね。ねえ加藤さん、後ろの方まで全部やりますよね?」
まじまじと覗き込まれて聞かれる。
後ろって……、わかるけど、改めて言われるととんでもなく恥ずかしい。そういうこと聞かないで欲しいんだけど。
恥ずかしさに言葉をなくす俺に「加藤さん?」なんて宮下が返事を促すから、仕方なく赤くなった顔でうなづいた。
「でも、こっちはなんか大変そうだから後にしましょうね。先に前だけ剃っちゃいます」
言いながら、持ち上げた性器を下ろされて安心する。自分から見えていない部分を見られているってなんでこんなに恥ずかしいんだろう。そして、それ以上にめちゃくちゃ怖い……。やっぱり、俺は注射の針は見ていたい。
短く切りそろえられた毛の残りをお湯で流す。それからシェービングフォームの缶を手に取った。シュワと音をたてて出てきた泡をペタリと切りそろえられた毛の上に塗った。ふわんとしたマシュマロみたいな泡の感触が広がって、短くそろえられた毛が見えなくなる。
ひたすら凝視している俺に「いきますよ」とことわってから、しょり、とカミソリを入れた。
入念に準備されただけあって、さっきとは比べ物にならないスムーズさでカミソリが肌の上を滑って、白い肌の跡を残していく。さすがに宮下も真剣で緊張した空気が伝わって、泡で隠された部分が剃り終わるとふぅ、と息をついた。
「綺麗に剃れるもんですねぇ」
感心したように言って、そろと宮下の手が剃り跡を撫でると、つるつるになっているのが自分でもわかってぞわぞわする。
「あんまり、まじまじ見るなよ」
「加藤さんがこんなに赤ちゃんみたいなになっていくの、見ないなんて選択肢あります? さ、続きも行きますね」
嫌がる俺を封じるように言って、ふたたびふわふわの泡を肌に塗りつけた。恥ずかしさに抵抗したくなるけど、シャキンと擬音をたてるみたいに持ち出したカミソリに、ピクリと俺の身体が固まる。
……それは、ずるいだろ~。
そうは思うがどうすることもできず、ふたたび股間に顔を埋めるみたいに真剣に覗き込んだ宮下に身を任せる。一呼吸置かれたことで少し緊張がほぐれて、ソリ……とカミソリの刃が肌を滑る感覚を追う。
肌の上を何度かカミソリが往復して、徐々に白い肌の面積を広げていく。ひたすらそれに耐える。耐えながらやばいな、と感じていた。
なんていうか、急所を握られカミソリを使われるのは怖いんだけど、段々とそれにも慣れてきて。危なげのない宮下の手つきにも段々安心してきて。それと同時に、手や泡やカミソリに触れられる感覚に意識が向く。
つまり、つるつるの肌を撫でる指の感じとか、ふわりと押し付けられる泡の感じとか。……後は、恐怖とギリギリで交換できそうな、ぞわぞわした期待、みたいなものとか。
じわり、と股間に熱が集まるのを感じる。けれど、さすがにこれで勃ったらダメだろう? 真剣な眼差しから目を離して、風呂の壁を見る。
落ち着け、落ち着け~……
修行僧になった気分で、心を無にしようと努力していると、ふぅ、と大きく宮下が息をついて俺を見上げた。
「できましたよ。前だけだけど……」
言われて見下ろすと、確かにつるりとした見慣れない下半身が出来上がっている。宮下がカランを捻り、シャワーのお湯で流しながらぬめりを取るように淋しくなった股間を撫でる。するん、というかぬるんというか、直接撫でられる感触がやけに生々しくて、せっかく無にしようと思っていた心が、よこしまな方に舵を切りだす。
「つるっつるですね」
満足気というか、ワクワクとした声で宮下に笑いかけられて、はは、と引きつった笑いがもれる。
「ほんとに何にもない……」
見慣れない股間に、視覚からも変な刺激を受けてしまう。
「自分でやってたくせに」
「そうだけど……」
するり、と毛を剃った場所を撫でられて、思わず身体がひくりと逃げた。それはどちらかというと、不快より快の方で……。じわじわと股間に熱が集まって、少しずつ成長していく自分の性器を意識しないわけにはいかなくて。
宮下にはその変化は気付かれているはずだけど「後ろもやりましょうか」と言われて、安堵か落胆かわからない気持ちで「そうだな」と答えた。何て言うか、もう今日はお腹いっぱいな感じなんだけど、これを後日に持ち越すっていうのもまた怖い。
「じゃ、あとはこれ使いましょう」
宮下は笑顔でそう言うと、シャンプーボトルの後ろに立っているもう一つのチューブを取り出して見せる。それが何かなんて説明されるまでもなく……
「……って、ローションじゃねぇか!」
「剃ってる途中で気付いたんですけど……、やっぱり剃ってる部分見えないと怖いんですよ。裏側の方は特に川とか複雑だし、傷付けたら困るなって思ってたんですけど、これだったら見えるし、ほぼシェービングジェルと一緒ですよね!」
「まぁ、似てるといえば似てるけど……」
「ちょっとぬめり強いけど、ほぼ一緒ですって。肌にやさしい成分ですし、見やすいし。宮下さんがじっとしててくれれば滑りすぎることもないんで!」
「そうだろうけど……」
「じゃあいいですね」
「えぇ……なんつーか、気分の問題が……」
「でも、泡だとカミソリの刃が見えなくて怖いんですよ。わかるでしょう」
そう訴えられればわからないでもなくて。でも、ほんと……気分の問題だけなんだけど、それ、絶対そのままセックスにもつれ込むだろ。絶対嫌ってわけではないんだけど……。だから、気分の問題で。
と言ってみたものの、結局宮下に押し切られる。
しかも後ろ側は見づらいからと背をもたれさせて、見せつけるみたいな体勢を指示された。もう、これ……ほとんど受け入れ体勢だろって格好で、ぬめぬめとよく知った感触が性器の裏側を撫でる。
「……っ」
くすぐったさに思わずもれそうになる声を抑えた。それを宮下が聞いているのがわかる。息を詰める度に焦らすみたいに、敏感な部分を撫でられた。
……だから、今、それをされると俺の意志と関係なく反応しちゃうんだって。意識しないようにと思う程、意識してしまう。
少しずつ、固さを増していく性器を持ち上げられて、ローションの塗り込まれた場所を露わにする。ぴとりとカミソリが敏感になっている肌に添うとゾクゾクした。
ぬるぬるするその場所を宮下の手がなぞる。
「加藤さん、自分で持っててくれますか。前と違って平らじゃないから、手で押さえながらじゃないとだめみたいで」
「しょ…うがねぇなぁ……」
なんて言って、自分の性器を押さえるために手を伸ばす。
剃毛のため、とわかってはいるけれど、手のひらの中で、ピクリと性器が跳ねた。
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