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第48話

 ふ、と宮下が息を吐く。耐えるような、耐えきれないような、熱い息。  ドキドキと走る心臓を持て余して、それを待つ。  俺を喘がせていた指は抜かれ、すぐに代わりのものがあてがわれた。ぐ、と力を込められると、何の抵抗もなく、ただ気持ち良さだけを与えて中に入り込んでいく。  その固い熱に、若いっていいなぁ、なんて思って。  快感に空白の時間がない。タチやってる時は、それもコントロールしてわざと長く持たせたりとか、そういう小賢しいことをやってみたりしていたんだけど。ネコやっているとそういう時間は必要なくて、むしろずっと気持ちいいのが続くのがいい。途切れてしまうのが惜しい。  たぶんこれはイキ方の問題なんだろう。  はっはっ、と短く息をしながら、ゆっくりと奥まで宮下を迎え入れていく。時折、ピリピリとあしの先まで痺れが走って、その度に身体をビクンと跳ねさせた。  もう、どこが何なのか、とかどこが気持ちいいのとか、分かんない領域。最初のうちは、入口が、とか、前立腺が、とかわかるんだけど、そのうち全部が堪らなくなって、気持ち良くなって、ただただ、その熱さに翻弄される。  いつもだったらもっとそれまでに時間がかかるんだけど、昨夜も思い切りしていたし、今も正直さっきまでの全部が前戯のようなもので。あっという間に、頂上が見えてくる。 「っ、あー……」  ビクリ、と背中が跳ねて、足のつま先をぎゅっとにぎった。奥まで挿し込まれたばかりの宮下の性器を、ぎゅ、と肉輪が締め付けているのがわかる。 「ぅっ……」  俺の動きに宮下が呻いて、それに煽られた俺は動かれてもいないのに、また身体をビクビクと震わせて極めていく。 「ぁ、あ、……っ!」  俺の身体の震えが止まるのを待って、宮下がゆる、と腰を引く。 「加藤さん、気持ちよかった? そんなに急がないで、いきましょうよ」  ゆる、ゆる、と抜き挿しされて、もう返事が出来ずに俺は「あ、あ、」とただ動きに合わせて喘ぐ。きついとか、つらいとか、もう何にもなくて、ただただ気持ちいいだけ。落っこちないように、置いて行かれないように、腕を背中に回して縋り付いて、動かれるままに揺さぶられる。  なんかもう、ここまでくると全身の力が抜けちゃって、締め付けるとかそういうのよりも[[rb:蠕動 > ぜんどう]]って感じで。きっと、中はうねって絡みついているんだろうな、とか。  ただただ、優しく絡みついて包まれるのが気持ち良くて、ゾワゾワするような快感に腰が止まらない──。なんて、それを思い出す。  自分がそこに至る度に、ああこれはきっとこんな感じの、と思い出していくのは何とも不思議な感じだ。でも、それをしている、引き出している宮下側の想像も容易だから、今はきっとこんな感じ、なんて思ったりもして。  けれど、それで自分がコントロールできるわけでもなく、ただ気持ち良さの分類をしていくだけ。  あ、あ、と半ばうっとりと揺さぶられていると、ぬるりと宮下の手が俺の股間に伸ばされた。ゆると甘勃ちしたままの性器を探られ、するすると見通しの良くなった丘を撫でられる。 「んんっ、ちょ……っ」  今まであったざりざりとした感触じゃなくて、直接ねっとりと触れられる感覚に身をよじる。 「きもちいいですか?」  荒い息の下で聞かれて、やだ、と呻いた。 「いや? きもちよくない?」  ぬるぬると根本に近い場所を撫で、時おりその手か性器を撫であげる。 「ぁっ……、…もち、いっ……、け、どっ…、やっぁ……ぁ」  ぬこぬこと抜き挿し続けられて、まともに息も継げずに返事も出来ない俺を、宮下がわざと追い上げる。 「あっ、ゃっ、……やぁっ」  それが分かっていながら、声も身をよじる動きも止められない俺もたいがいだ。  なんつーか、ほんとに気持ち良すぎて無理なんだけど、無理って言葉にするのも、プレイのひとつみたいな……。自分の声に自分で煽られて、俺の声で煽られる宮下を見たくて。  どうにもならない衝動とか、コントロールできないっていう言い訳の下に隠した計算みたいなものがある。  だからって、計算がなくなったらその動きをしないかと言われたら、多分する。どうにもコントロールできないのは本当で、自分で選択している事はほんの少し。  そのほんの少しに、少しだけ混じった計算みたいなそれで、わざと恥ずかしい自分を選択している。 「だめっ……、それ、むりぃ…、ぁ、」  甘えたような自分の声にうんざりして、だけどそんな声を出す自分に興奮したりして。  ぬるぬると宮下の手は俺の性器をしごき上げて、その動きに合わせて、ぬちゃぬちゃと揺さぶられて、粘液が糸を引くような音がする。 「むり? さっきより、固く、なってきたのに?」 「むりっ、だめっ……」 「だめじゃないでしょう? 加藤さん……、すっごい、きもち良さそう……」  うっとり、って感じに言われて、その声音にゾクゾクと脳から背中が痺れる。  そんなふうに、言われてしまったら、だめ、だから……。  自分が相手に快感を与えている、っていう、なんだろう、これは。支配欲ってんでもないと思うけど。 「んっ……」  ぼんやりとした冷静な思考を徐々に奪われて、気持ち良さに支配される。 「あ、や、やっ……、ぁ、あ」  手の動きと、中を抉られる動き。それに頭の真ん中まで痺れて息の詰まる快感に無理矢理押し込まれていくよな。  それと同時に、とんでもない快感が襲ってきて、あぁだめ、と思う。 「やっ、でるっ」  急激な感覚に抵抗できずに訴える。 「でる? イく?」 「イっ……く、けどっ、じゃ、なくっ、てぇ……っ」  昨日、覚えたばかりの感覚。身体の中にくすぶっていた昨日の快感が、再び引きずり出されていく。  ──出るの、精液じゃないから!  その言葉は、伝えることなく「あっ!」と小さな叫び声に変わる。  固く、と言っても正直、真っ直ぐ立たせたらまだふにゃふにゃと曲がるみたいなそれで、だからって放尿するにはちょろ、としか出ないみたいなそんな固さで。  それをゆるゆるしごかれながら、奥を揺さぶられて、堪えきれなくなる。  う、と息を詰めて襲い掛かるそれに耐える。  パシャ、と音がしてせき止められなかったそれがあふれた。そのまま奥を突かれ、しごかれる度に、ピチュ、ピチュと残り水をしぼり出していく。 「ぁ、ぁ、…あー……」  一度出てしまったら、もう堪えることなんてできなくて、諦めの吐息と一緒に何度も吐き出した。生温い液体を腹と腕に掛けられた宮下が、それを確認して、それから俺の足を抱え上げ直す。 「かとーさん……っ」  ん、と小さく息を吐きながら、バチ、と音を立てて奥まで性器が押し込まれた。いきなりの強い責め苦に、ヒュ、とのどが鳴る。 「ぁ」  声にならない声がこぼれて、それから、激しいそれに耐える。息の出来ない快感……。  高く掲げた腰を押し潰されるみたいにして、打ち付けられて奥に吐き出される。膨らんだ性器が、ピクリピクリと震えて俺の中に、精液が吐き出されていくのを感じた。  外れそうになる腕で必死に背中にしがみついて、その、頭がおかしくなりそうな快感に耐える。  ぼんやりと、ビクビク震えながら天井を見つめているうちに、首筋にうめていた宮下の顔が近付いて、息の出来ない俺に、喰い尽くしそうなキスをする。  性急に舌を吸われて、絡められ、宮下の舌が口腔を暴れまわる。何だか気が遠くなって、それから、急に呼吸を思い出した。絡められた舌の隙間から、必死に息を吸う。 「んっん、んぁ……」  呼吸と一緒に声も出る。ついでに、舌が痺れているおかげで、だらだらと涎も垂れる。それをちゅ、と吸い取って宮下が口を離した。  宮下の肩口に頭を寄せると、掲げられた腰がずれて、ずるり、とそれが抜け落ちた。その感触に「んぁ」と声を上げた。  今まで満たされていたそこが、突然の空白におどろいてヒクヒクとひくついた。それから、どろり、と何かが尻の後ろに伝っていく感触。  ──そうだ、ゴム付けてなかった。  なんて、今頃気が付いて。俺はたらたらとそこを流れていく精液に、ゾワゾワと腰を震わせた。

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