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第49話

 なんだかもう、びちゃびちゃでどろどろで、意識はしっかりしてるつもりなんだけど、多分それはつもりだけ。明るい浴室の洗い場で、ひっくりかえったまま腕一本も上げたくなくて、天井を見上げている俺を、宮下はかいがいしく世話をする。  後ろの、とろとろに蕩かされた穴がゆっくりとしぼんでゆく。そこに宮下の長い指を突っ込まれて、吐き出された精液をたらり、たらりと搔き出した。もう、その指の感触さえたまらなくて「ぁ、ぁ、」と声が上がる。  それはもう、完全に自分の意志とは別のところで、ある意味、身体と意識が切り離されたみたいな。勝手にうごめく身体が、勝手に指を締め付けて、意識がぼんやりとしたまま。勝手に追い上げられて行く。 「加藤さん……、その声やめて……」 「んっ……んん? んっ、む、り……」 「止まれなくなりますって!」 「それ、され、ると、かって、に、でるっ」 「……だって、中、そのままだとお腹こわすって……」 「そ、だけど……」  宮下とは付き合って半年ほど経つけれど、生のまましたことはほとんどない。酔っ払って勢いのまま雪崩れ込んだ時とかのほんの数回だけ。それも中に出すなんてほとんどしたことが無い。ほとんどってのは、ちょっとだけ抜くのが間に合わなかったとか、そんな理由。  だから、こんなに奥にしっかり|射精《だ》されたのは初めてだったりする。  正直、これヤバいなってくらいには気持ちいい。挿入する側があると無しじゃ、無い方が気持ちいいってのは知っていたけれど、まさか生のまま|挿《い》れられるのが、こんなに気持ちがいいとは思わなかった。  ぐしょぐしょにローションを使って、しっかり解していても、薄いゴム使っても、なんというか……生がいちばんしっくりくる。異物感が無い。しっとりと馴染んでひとつになっているっていうその感覚。それから身体の中に吐き出されたそれに対する愛しさみたいな。  今、それを搔き出されているわけだけど……、感情でいうならそのままにして欲しい。  愛しくて食べたくなるっていう、それが満たされたみたいな感じだ。宮下を食っているみたいな、宮下の身体を俺の一部にしたみたいな。精液を飲みたいというのと似てているのかも知れない。  だから、優しさで搔き出してくれるのはわかっているんだけど、それが少し寂しいみたいな気もする。  ……といっても、その搔き出す動作で快感を煽られているわけだけど。 「ちょ……、宮下いい」 「ん? 気持ちいい?」 「じゃ、なく、て……、俺、自分で、やるから……。それ、出すの……」 「えぇっ……」 「お前が、声、出すなっていったんだろ」  心底残念そうにいう宮下に、自分で言っときながらと突っ込む。 「……そう、ですけど」 「宮下がしてたら、無理だから……」 「俺がしたら気持ちいいってこと?」 「……ま、そう、だな」 「自分でしたら声出ないんですか」 「んー……まぁ、今よりは……」  宮下はしばらく考えた後、挿し込んでいた指を引き抜いて言った。 「…………、じゃあ、どうぞ」 「どうぞ、って」 「見てるので、宮下さん、やってください」 「えぇっ」 「サービスだと思って」 「何のサービスだよっ」 「俺へのサービス?」  しれっと言う宮下に胡乱な目を向ける。 「見られてたら嫌なんだけど」 「まあまあ、いいじゃないですか。一人だと思っていいですから」 「嫌だよ」 「んー……、じゃあ、見てないんでやってください。気にせずどうぞ」  と言いつつ、出しっぱなしで端に寄せられていたカミソリなんかを片つける。 「それ、見てるのと同じじゃねえかっ」 「大丈夫ですって、見てないです」  と言われても、わくわくと待っている宮下の視線が気になる。それを意識すると、ぞくりと中が疼くというか、ぞわぞわと期待みたいなものが湧き上がる。  どうしようか……。  迷っているそれさえも、なんていうか、見せたいみたいな期待みたいな……。見られている自分を意識すると、背中がぞわっとした。  たぶん、俺はまた発情したみたいな表情で宮下を見ている。 「どうします?」  宮下が、ぞくりとするような声で聞いた。  その声にのろのろと起き上がって、浴槽のふちに手をかける。 「見るな、よ」  なんて、いかにも見て欲しいって言ってるみたいだと分かっていて、それでも言った。  浴槽を掴む手でふらりとかしぐ身体を支えてしゃがみ込む。どうしようかと羞恥で迷う手をのろのろと股間に伸ばす。茂みがなくなったふっくらとしたおかの向こうの、たらりと精液がしたたるその場所。  そこは触れると、いつも熱を持ってよりぷくりと腫れているようだった。ふにふにと柔らかな周りを確認して、それからぬめる場所にそっと指を挿し込む。 「んっ……」  ふわふわにとろけた肉穴は抵抗なく指を飲み込んでいく。たらりと手に伝う生あたたかい体液の感触。中はどこに壁があるかもわからない。ただ柔らかくてあたたかなものが指に絡みついている。  子どもの頃、夢中で遊んだどろどろのスライムみたいな、どこまでもやわらかく沈み込んでいきそうな、そんな感じ。指を伸ばして息をつめると、入口と中の壁の奥の方がゆると動いて、ゆっくりと肉壁が指をこする。  自分の指を飲み込ませて中を探る俺を、宮下の熱っぽい視線が捕らえている。恥ずかしくて宮下の方なんて見えないんだけど、視線の熱をぞくぞくするほど感じた。  誘惑に抗えずにちらりと宮下を見る。真っ直ぐにこちらを見る宮下と目が合って……。  ふにゃりと柔らかい唇が触れた。宮下が近付いて俺の身体を抱きとめて支える。挿し込んだままの指がきゅと締められた。ぱたりと宮下に身を預けて、んっと上がる声を抑えながら、中を探る。  ぞわぞわと足裏から登る快感に身体がふるえた。指が締め付けられて中がうごめく。唇が触れているだけ。それだけで他はさっきと何も変わらないのに、あっという間に指先までしびれていく。  ん、と息をつめてがくがくとふるえる。小さな絶頂に肉壁に囲まれた指が、入口で締め付けられ、中で絡みつかれる。  触れていた唇をペロリと舐められて、我を取り戻す。 ぱちぱちとまばたきをして、間近にある宮下の顔を見ると急に恥ずかしくなった。 「あ……」  へらっとごまかして笑って、入れたままになっていた指を抜き取った。ふかふかの布団のような居心地の良い場所でふやけた指に、残っていた精液が絡んでいる。  少し動いただけでさっきよりもくらりとして、やばいな、と宮下を掴む。風呂場でなんかやるから……と、どこかで自分の声が聞こえた。

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