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第59話

「……っ」  ぎゅ、と強く抱きしめられる。それから耳元で、やらしい声……、と宮下が囁く。  首筋から肩口、それから身体の中心へぞわりとふるえが走る。その間も、俺の唇は自然と媚びるみたいな音をもらす。  すっかり慣れた。本当に。  一年、いや半年前にはこんなこと思いもしなかったのに。それでも今はこれが自然だと思えるんだから、本当にすごい。  ごそごそと服の中で胸元を探っている腕を握る。もう一方の宮下の手は、するするの股間の感触を楽しんでいて、その期待を孕んだくすぐったさに、ぴくぴくと腰が震えた。  きゅ、と胸をつままれて、思わず小さく叫ぶ。 「んぁ! ……それっ、ぁ」 「小っちゃいのに、敏感ですよね。かわい……」 「っ……、最近、可愛いって、言い過ぎっ…て」 「だって、かわいくて……」  宮下はそう言ってくれるけど、どう考えても可愛くはないだろう。自虐ってわけじゃないけど、俺は俺の思う『可愛い』からはだいぶ外れている。というか、たぶん一般的にも。  ゲイの中ではあからさまに性癖や趣向が語られることも多くて、確かに老け専だの、デブ専だの、筋肉がいいだの、体毛だの……、色んな趣味のやつがいて、それが普通なのは理解しているつもりだけれど。  いざ、それが自分に向けられるとなると、信じられないというか。『嘘だろ~?』って感じなのだ。頭じゃわかっているけど、感覚が追いつかない。  それから、それが好意からくることはわかっているので、嬉しいような、くすぐったいような……。  だけど、やっぱり『嘘だろ~?』はぬぐえない。  ふふふ、と宮下が笑った。 「そうやって、恥ずかしがるの、余計に可愛いんですよ。知ってました?」  まあ、そういう仕草が可愛いことは知っている。が、それは自分でなければの話で。 「可愛くないだろ、とか思ってるでしょ? でも……」  宮下の指がピンと乳首を弾いて、同時に大きくなり始めてもまだ柔らかな性器をきゅ、と握った。 「……んんっ!!」  ビクン。身体が跳ねて、声がこぼれる。  それから、優しく乳首をこねくりまわされて、性器をゆっくりと扱く。 「あ、っ……、ん、…ん」  気持ち良さに震える。連日与えられている快感を思い出して、すぐに身体がとろけてゆくみたいだ。  ちゅと耳に直接、音が響く。後ろから耳元にキス。 「こういうの、全部に反応するの、可愛くないわけないじゃないですか。しかも可愛いっていうと、嫌がるのに口元、嬉しそうですよ?」  かわいいの奥にある、気恥ずかしさを言い当てられれる。 「そ、いう…の、言わなくて、いいから……」 「……って、照れるのも可愛いし。でも、何よりギャップが、余計にクるんですよね。仕事の加藤さんにずっと憧れてたから、……俺以外の誰もこういうの、知らないですよね?」 「知る…わけ、ないだろっ」 「みんなに頼られてる加藤さんが……」  きゅと力を入れた手が扱く速度を増して、乳首を引っ張られる。 「っ… あっ……、やっ…」 「こんなふうに、喘いでとろけちゃうの……」  かぷ、と耳を口に含んで、そのまましゃべる。ぬちゃ、と舐める音が頭に直接響いた。 「それ、みみ……、やだっ…って……」 「やだ、じゃなくて、イイでしょう?」 「みやし…たぁ……」  自分の甘えた声が、やけに耳につく。 「宮下、じゃなくて?」 「…んんっ、……けーご…」 「そ…、良くできました」  ご褒美、というようにつまんでいた胸の先を優しく撫でられた。そのまま、きもち良いって言って、とねだられる。 「ア…、きもちい……」 「ね、名前も呼んで?」 「けーご…、きもちぃ……」 「ほんと、きもちいい? これ、されるの好き?」  鈴口からあふれた先走りを、亀頭に塗り込まれるように擦り込まれて、ビクビクッと腰が震える。 「…ンンッ、……すき。きもちい…。それ、きもちいぃ」 「それ、ってこれ? それともこっち?」  乳首を弄る手が、胸の先を優しくピンッとはじく。 「ンアッ、どっちも……。どっちも、すき」 「きもち良さそ……」 「ぅんっ、きもちいっ! けーごぉ……っ、あっ」 「うん、きもちイイ? かわい…。きょーへいさん、かわいい」  浮かされるような宮下の声が、霞がかった頭の中に響いた。  すきだ、と思う。  俺のことで、夢中になってくれる宮下こそ、本当に可愛くて。そう伝えたいのに、口から飛び出るのは喘ぎ声だけだ。  後ろから抱き込まれている身体を逸らして、宮下を見た。 「んぅっ」  はく、と息を継ぐ唇を宮下の唇にふさがれる。ぁ、と小さな声が呑み込まれた。絡めた舌を吸われて、ぞわぞわと頭の芯がしびれる。  ぁ、  抱きしめられた腰の後ろ、尻の間にぐりと硬くなった宮下を擦り付けられた。二度、三度とこすられて、身体の中心が疼いてくる。  尻の間に擦り付けられる熱いかたまりに、たまらなくなった。  腕を掴んだままの手を離して、宮下との身体の間に強引に手を割り込ませる。尻の谷間に押し付けられているそれを丁寧に撫でてその硬さを確認した。  その充実感に、思わず舌なめずりをするようなため息が出る。同時に宮下もはぁ、と大きくため息をついた。 「…それ、やば。指、動かすの」 「気持ちいい?」 「はい」  素直にそう言った宮下は、腰を押し付けられるようにうごめかせた。そうされると、反射みたいにひくひくと尻がひくつき、ビクリと背中がふるえた。  ちょっと、と宮下の手を振りきって、こっちと正面を向き直す。 「キツいだろ?」  言いながら、パツパツになった宮下のズボンをくつろげてやると、さすがというか何というか。ガチガチになった性器が、待ってましたとばかりにぴょこんと飛び出した。  勢いのままにふるりと揺れるそれが、あまりに可愛くて、くくくと笑う。 「……しょうがないでしょ。加藤さんが可愛いんだし」 「何も言ってないだろ。それに、可愛いのはコイツだろ?」 「……っ」  言いながら、期待する性器をゆっくりと握ってやる。  そのまま血管の凹凸を確認しながら手を上下させると、簡単に宮下は息を詰まらせた。 「……加藤さんだって、」 「俺はいいの。……つーか、俺も気持ち良くしてやりたいんだから、素直にされとけ」 「でも、加藤さんの気持ち良くなってるの、見たいんです……」  まあ、その気持ちはわからなくはないけれど、それは俺にも当てはまるわけで。 「俺は宮下ほど若くないし、そんな何回もイケねえよ、多分」 「そう、ですか? そんなことないと思うけど……」  宮下の手が、両手で宮下をしごいている俺の、中途半端にずり降ろされたズボンを太ももまで下ろした。温まったと言ってもまだ冷たい空気がすうっと素肌に触れて、温かい手が何度か尻たぶを撫で回す。 「んっ…、こら、いたずらすんな」 「いたずらじゃないですよ」  そう言いながらも、宮下の手は後ろをなぞり、割れ目に指をかける。 「それ、されると……っ」 「されると?」 「……集中、できないからっ」  既に、割れ目に触れられただけで、ビクッと身体が はねる。 「……奎吾」  名前を呼ぶと、ぴたりと宮下の手が止まる。 「そこで名前呼ぶの、ずるい」 「もうちょい、いい子にしてろって」 「充分、いい子だと思うけど……」  そう言いながらも、宮下は大人しくされるがままになった。

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