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序 狐の拾い物

 赤子の泣き声が山に響く。声の主は木で出来た簡素な箱に入っている、麻布に包まれただけの子だった。  山の麓に住む誰かが捨て置いたのだろう。運が良ければ赤子は誰かに拾われるかもしれないが、こんな山奥に訪れる者はいない。否、昔ならば口減らしの為にこのように連れて来られた幼子や足腰の立たぬ老人がここで朽ちていった。今では余程の阿呆が迷い込む他に、好き好んでここまで来る事など皆無に等しい。 「おや……捨て子ですか」  何処からか現れた、半狐面を被った男は赤子に話し掛けた。長い白髪と赤い鮮やかな和服姿のよく似合う浮世離れした男だ。赤子は男の方を見ず、己の生命力を主張するように泣き続けている。  地面にしゃがみこんで更に赤子に近付く。そして興味深そうに泣き続ける赤子を眺めた。 「私が貴方を拾って差し上げます。今から貴方は私の物です」  男は木箱ごと赤子を抱え、立ち去った。

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