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終 化かし狐の棲む山

 或る村の東側に、燃える山があった。実際に燃えているのではない。村人達は皆、山全体を包む炎の幻覚を見ているのだ。煙は全く上がっておらず、実際に炎に触れても火傷を負うことはない。それを分かっていても山に踏み入る者はなかった。何故ならその山には化かし狐が棲んでいるからだ。  これは噂に過ぎない話であるが、悪戯好きの化かし狐は一人の人間を可愛がっているそうだ。山に捨て置かれた赤子を拾い、それはそれは献身的に育てているという。その人間はひと目で人も妖も魅了すると言われているが、その姿を見た者は化かし狐に祟られるらしい。  化かし狐は短気で嫉妬深い。育てた子を誰にも見せぬよう、奪われぬよう山全体に妖術をかけた。  だがその真偽を確かめる者はいない。以前一人の男が化かし狐と共にいる美しい少年を見たと言っただけだ。だがその男はもうこの世にはいない。少年を見られた化かし狐が嫉妬に狂い、祟ったのだと村人達は信じた。  一昔前の化かし狐の妖術は弱く、ひとときのものであった。だが今は如何か? 山は延々と燃え続けている。昔の比にならぬ程化かし狐の力は強くなっていた。昔から恐れられてはいたが、本当にもう誰もあの山に近付く者はない。  麓の村に住む村人達は、炎に包まれた山を「妖火山」と呼んだ。  やがて時は流れ五十年が過ぎた頃、遂に炎は消えた。化かし狐に何があったのか、化かし狐が可愛がったという人間は如何なったのかは誰も知らない。  炎が消えた山は後に「陽緋山」と呼ばれるようになった。

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