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【番外編】おやすみとおはようと~200日目のプロポーズ(第三夜)
ナカがうねり、熱くなってきた。ゆっくりと締まったり緩んだり不規則に動いている。シーツに顔を埋めているつもりなんだろうが、もう喘ぎ声は隠せていないし、時折思い出したかのようにぴくっと手が動く。すごく気持ちよさそうだ。そう思った次の瞬間、興奮に上擦り震える声で樹生がねだった。
「ねえ、翔琉」
「何?」
「……しよ?」
よし来た、待ってましたとばかりに、俺はすかさずスキンを着ける。樹生は自分から進んで、仰向けに横たわっている。今日はバックじゃなくて前からが良いんだな? 最初の頃こそ遠慮して恥ずかしがって、ベッドで自分の希望をあからさまに言わなかった彼だが、今は、かなり意思表示がはっきりしている。恋人としては、ありがたい。女の子が相手だと、してもらいたがってることを、こちらが推し測って当ててあげないと怒られるが、彼との間では、そこは気兼ねがなくて良い。
もう彼は快感で蕩けかけている顔を隠さない。うっとりと、潤んだ瞳で俺を見上げている。
「来て」
手を差し伸べられると、魔法が掛かったように彼から目が離せない。ふらふらと膝立ちのまま歩み寄る。そして見つめ合ったまま、のし掛かる。額を合わせ、俺は彼の中に入った。
「あ、あ……」
艶かしい吐息を途切れ途切れにこぼす彼の目は眇められていて、全身の反応がどれも、とても気持ち良さそうだ。嬉しくて俺が微笑みかけると、彼も照れたような笑顔を返してくれた。
「翔琉、ありがとう。
付き合って二百日、毎日すごく幸せだった。翔琉が、僕だけを好きでいてくれて、一緒にいて安らいでくれて、ほんとに嬉しかった」
さっきまでいやらしく喘いでいたのに、急に改まった口調で言われ、一瞬だけ戸惑ったが、彼の表情は真剣だ。
きっと、それだけ過去の恋愛では、相手の気持ちが自分に向けられているか自信が持てなくて、不安で一杯だったのだろう。いじらしくて、可愛くて胸が詰まる。
「ねえ、樹生。俺たち、二千日目の記念日も祝おうぜ。……できれば、二万日目も」
彼の髪を撫でながら、俺はわざと顔をくしゃっと崩して、おどけた口調で提案する。
「……翔琉、二千日と二万日がどれくらいの長さか、知ってるの? 五年半と、五十五年だよ? 五年半はまだしも、五十五年経ったら、僕、八十三歳じゃん」
一瞬大きく目を見開いた後、彼の顔もくしゃくしゃになった。涙が滲んだ声で訴えられ、鷹揚に応える。
「おお、良いねえ。お互い長生きしなきゃ祝えないな。健康に気を付けようぜ」
ゆるゆると腰を前後に動かす。無言になった彼の唇はわなないている。つつけば、ぱちんと破れてこぼれ落ちそうなほど、目には涙を溜めている。堪らなくなり、そうっと眦に口づけ、涙を俺の唇で拭った。
「冗談で言ってるわけじゃないからね。五年後も五十年後も、俺、樹生と一緒に笑ってたいよ」
そう囁くと、彼のお腹は、笑っているみたいに激しく震えた。反射的に、彼を抱き締める。俺の腕の中で泣きじゃくりながら、感情が昂ったからか、彼が俺の愚息を締め付けに掛かる。
「感動的な場面で、アレなんだけどさ。樹生、そんなに締め付けたら、俺、もうイッちゃうよ……」
奥歯を噛み締め、脚と臀 に力を入れて、何とか達しそうになるのを堪える。
「樹生と一緒にイキたい……。もうちょっと力抜いて?」
彼の肩を撫でて落ち着かせ、喘ぎながら懇願すると、樹生は大きく息を吐き、肩を下げた。緩んだのを感じ、挽回のチャンスとばかりに、俺自身を、彼の良いところに擦り付ける。自分の口から呻き声が漏れるのを感じる。彼の肩を押さえ込んで、逃げられないように彼を捕まえ、小刻みに腰を前後する。
「あぁっ、ああ、あんっ」
俺の腰の動きに連動して漏れる切なげな声に滾る。動くたびに擦れる彼の肌は、ヤスリで擦られたように薄紅に染まっている。体温が上がり、汗ばみ、立ち上る肌の匂いも体温も混じり合う。お互いに、自分の身体が相手を悦ばせていると実感できるのは、何と幸せなことか。
「……俺、そろそろイキそう。樹生は? 来れる?」
「ん。ぐりぐりってして。そう。そこ……っ」
強く抱き締め合いながら、二人で達した。
この後すぐに、樹生の妹さんを紹介してもらえることになり、一気に、家族公認の交際へと発展した。樹生が心を開いてくれたのは、俺の「二千日後も、二万日後も」という求愛が決め手だったと、後で教えてもらった。
これは二人だけの秘密だ。少なくとも、今のところは。
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